やすtea

シェイプ・オブ・ウォーターのやすteaのレビュー・感想・評価

3.8
ふと、TVを付けるとWOWOWで「シェイプ・オブ・ウォーター」が
放映されていた。
時計を見ると、開始から20分を過ぎたところだ。
上映当時、あまりそそられず、アカデミー賞作品賞を受賞したときには、
驚いたものだ。 ギルレモ監督お得意のダークファンタジーは健在で、
吸い込まれるよに、TVに文字通り釘付けになってしまい、
遅い時間なため、録画しておこう! と録画をするも
途中で止める事が出来ずに、結局最後まで鑑賞してしまった。

ヒロインは美人でも、可愛くもない中年女性。
対する相手役(恋人)は、半魚人を超えて、モンスターに近い存在だ。
このモンスターが厄介で、全く私には興味をそそられない。
得体の知れない身体、どこかカッコ良いところと言われても困る。
しかしながら、この2人と2人を取り巻く友人、敵役、そして
美しい音楽と背景、2人の純粋な相手を思う気持ちに心を奪われてしまうのだ。

話す事が出来ないヒロイン、世間から数奇な目にさらされるモンスター。
ヒロインが心を許し、一緒に居て楽しめる相手は、ゲイ。
同じ職場の清掃婦は、有色人種、女性というWのハンデに加え、
家庭では、全く妻を労らない夫に、ため息が出る。
半魚人を研究する博士は、ロシアのスパイでアメリカからの要求とロシアからの圧力の間で本来の自分の意思を見失うという、苦しい立場。
つまりは、ギルレモ監督が描きたい、伝えたいのは、こうしたマイノリティーな人たちへの応援であり、それらを排除している現在の世の中への訴えを、見事にストーリーに組み込ませているところだ。

それをとても分かりやすく示しているのが、仇役のアメリカ人軍人のストリックランドだ。
大きな庭付きの家、車はキャデラックで、ブロンドの妻と子供がいる家庭。
まさに、当時のアメリカが第一に理想と掲げていた家族の象徴で、商社の図柄だ。
ここで、ギルレモ監督のストリックランドの描写が、非常に興味深く、この作品の肝であると思う。
彼は、外から見れば成功者であるにも関わらず、何か満たされない日々を送っている。
常に苛立ち、妻との性行為も自己中心で乱暴だ。
そんな中で自分がいる世界とは、全く反対の空気をまとったヒロインに執着するようになる。
それは彼が欠けているものであり、本能的に欲していることを表ていると、私は思った。


どうしてヒロインはあんなにも、あのモンスターを愛したのか。
自分をそのまま受け入れてくれる事、慈しみ合う事が出来たからか。
2人にしか通じないことだ。 だから、それでいいのだ。
自分が愛している人から、必要とされる。 それだけで、世の中はいいのだ。


恋愛、ファンタジー、残忍さ(グロさ)、サスペンス、社会性、そして、
ミュージカルまで交えながらも、主張している“愛”をブレずに描き切った
監督の手腕が素晴らしい!

オタク監督といえば、「ロード・オブ・ザ・リング」の、ピーター・ジャクソンで、
彼もアカデミー作品賞を受賞している。
が! 原作がある。
この「シェイプ・オブ・ウォーター」は、ギルレモ監督オリジナル作品なのだから、
並々ならぬ、監督の強い意志と思いが伝わる。


この物語は、語り手(ヒロインの画家の友人)が語るように、
本当のおとぎ話なのかもしれない。 私たちは、グリム童話やアンデルセン童話のように家庭で読み語られているものなのかもしれない
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