ドント

シェイプ・オブ・ウォーターのドントのレビュー・感想・評価

3.5
 2017年。面白く観れたが書きたいことも色々ある。冷戦真っ只中のアメリカっぽい場所だけど、いつかの昔のどこかの物語。研究所の掃除をして働く生れつき声の出ない女性と、そこに運ばれてきた異類の生物との交情を描くアカデミー賞受賞作品。
 レトロだけど近未来感も漂う世界観や美術・小物の数々、やわらかな色味でスルスルッとなめらかに紡がれる映像は文句なしに素晴らしくウットリ。抑圧される側から静かに抵抗する側になり一握りの気高さあるいはワガママを現していくサリー・ホーキンス、高圧的で悪しき男らしさをまとっているがそのような身分を強いられている被害者でもあるマイケル・シャノン(この人はこういう役が本当に似合う)、それにはんぎょどん(仮)の造形と演技も見事でやはり魅せてくれる。
 ただしかし、どうもこの、もうひとつ乗り切れなさがあった。現実の生々しさと寓話性の対立と同居を狙っているだろうことはわかるのだけど、それにしてもどうも食い合わせが悪い。『パンズ・ラビリンス』ではリアルと魔法がパッキリと分かれていたが故に成功していたそれらを無理に混ぜちゃおうとしている上に、主人公の感情移入~愛へと至るお話がどうも早急で、古きよき時代へのオマージュと共に構築された世界観を上滑りしている印象が強い。
  また、「このお話」においてこれだけのセクシュアリティや性的な描写が必要なのか、と感じる。ヌードとか水中ハグとか、「パカーッ開いてキューッ出よるんよ」くらいならいいと思うけど、寓話性を削りすぎるのではないか。あとレイティング対策としてモザイクを入れられたのがマイケル・シャノンの尻だけってのはどうなんですかFOXさん。もう出してあげてくださいよマイケル・シャノンの尻。
 ついでに書くとつい先日、日曜朝の番組で「AIには心がないが、人間の方がAIの振る舞いから勝手に心を見い出だす」なんて話を観てしまっていたので、はんぎょどん(仮)が本当に主人公と「心」を通わせているのか? と気になってしまった。このタイミングも乗れなかった一因かもしれぬ。ごめんデルトロ。ともあれ120分の美映像はスーッと喉越しよく観れるので、よい映画であることは確かである。
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