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born、bone、墓音。のdm10foreverのレビュー・感想・評価

born、bone、墓音。(2016年製作の映画)
3.7
【カルチャーギャップ】

一応日本は「単一民族国家」という事になっている。
さまざまな意見や見解はあるだろうけど、一応そういう事になっている。

世界的に見ても、別にそれほど大きな国土を持っているわけでもない日本で、時差もなく、言葉も(一応)標準語はみんな話せる。
日本国憲法や各種の法律は北から南まで全土統一で適用され、桜と聞けば「春」をイメージし、高校野球と聞けば真夏の甲子園をイメージする。

でも、ぎゅ~~~~っとGoogle mapを拡大していくと、やっぱり日本って広いんだなって感じたりもする。
そういえば品川のホテルに泊まったとき、友達に「五反田まで歩いたら遠い?」って聞いたら笑われた。
(歩けないこともないけど・・・普通は歩かないですね)って。
そっか・・・札幌の感覚ならそれくらい歩けちゃうんだけど・・・っていうか自分の感覚がずれてんのかな?

そんな「広くて狭くて、でもやっぱりちょっとだけ広い日本」の中で感じる「カルチャーギャップ」の代表的なものと言えば、やっぱり「食」と「言葉」ってなるのかな。

まだまだ交通機関や通信手段もなかったような時代に、それぞれの国(藩)で根付いた幾つもの「文化」。
今になってそれを一つの箱の中に入れてまとめようとしても、なかなか難しいものもあるよね。
風土的に根付いているものもあれば、信仰にも近い風習などもあるし・・・。

そんな日本の「箱」と「中身」が合ってないっていう問題はあちこちで起きていて、それは何も「民族問題」のように大きく発展していないような「ご当地問題」だってたくさんある。

今作における「洗骨」という風習は実際にあるそうだけど、「墓を掘り起こして骨を洗うなんて、そんなの犯罪じゃないか!?」っていうのは、極めて「日本国(箱)的」な考えであって、そこに込められた意味や風習の成り立ちなどは触れられない。
何故なら、こんなの一般的に言葉で説明するような話ではないし、説明したところで理解が得られるような事でもないから。

――粟国島出身の等(ゴリ)と結婚した優子(佐藤仁美)はバツイチのシングルマザー。
今回は花子ちゃんという娘を連れて等の生まれ故郷の粟国島に来ていた。

物語は二人のケンカシーンから始まる。
「騙したのね!そんな犯罪行為に巻き込むなんて!」
「騙したわけじゃないさぁ」

このやりとりで、粟国島の人にとっての「洗骨」の捉え方がよくわかる。
粟国の人々にとって、洗骨は「当然やるべき当たり前の儀式(風習)」ではあるけれども、だからといって楽しくて楽しくて仕方がないというものでもないという事。
つまり、粟国以外の人からすれば「受け入れ難い風習」であるという事も理解しているという事。
もっと言えば粟国の男性陣ですらショッキングすぎて酒を飲みながらじゃないと出来ない人もいる(らしい)という事。

もしかしたら「洗骨」の事実を告げていたら優子が粟国島に来てくれないのではないか?という思いも過ぎったのではなかったか?
だから、島に着くまでこんな大事な「イベント」の事が言えなかったんだと思う。

この作品の中でも「洗骨」の様子は描かれているが、寧ろ大切なのはそこではなく、亡くなった大切な人の骨をきれいにするという事に込められた思いや願い。

沖縄において、洗骨前の死者の体は生前の様々な穢れが付いているために成仏できず、改めて骨を洗ってきれいになって成仏できると信じられてきたそうです。
そうやって死者のことを忘れずに、成仏できるように祈りながら骨を洗う。
もしかしたら、相当グロい光景に出くわすこともあるかもしれない。
でも、大切な人に成仏してほしいという願いと同じくらいに、感謝を込めて骨を洗うんだろうな・・て考えたら、不思議と怖さは感じない。
・・さすがに見ず知らずの人の骨はちょっと・・だけどね。

だから、お父の頭蓋骨を慈しむように洗って膝の上のちょこんと乗せて座るお母の姿がなんとも微笑ましくすら見えた
(ふつうならアウトだよ。膝に頭蓋骨を乗っけたおばあさんが微笑んでる絵なんて)

でもそうやって、先代、先々代、もっともっと前からと脈々と「骨を洗ってきた」文化。
自分を育ててくれた人の骨。
自分を世の中に出してくれた人の骨。
自分を周りの人々を繋いでくれた人の骨。
色々な思いを持って骨を洗う。

形は違うけど、お彼岸やお盆に日本中で行われている「お墓参り」と基本は一緒。
寧ろ、こっちのほうが直接的な分だけ故人への思いは強いのかもしれない。

一方的な価値観をもって「いい」「悪い」や「文明的」「野蛮」というようなカテゴライズは必要ないし、そういう事ではない。

死してもなお繋がっているって、それは素敵なことさぁ。

内容の割りに、テイストがそこまでウェットにならずに済んだのはキャスティングによるところも大きいと思う。短編なのでそんなに人数出てない割りにパンチの効いたキャラの割合高し。

佐藤仁美さんは、いるだけで面白くなるっていう計算が立つけど、それ以上に面白かったのがお兄ちゃん(山越智二さん)。
あのド近眼眼鏡で、乱暴なんだけど何故か憎めないという不思議なキャラ。
お兄さんと佐藤仁美の口論のシーンでは、いつスカットジャパンばりの「白目」が出るのかっていうくらいに面白かったし、ゴリがサトウキビで叩かれるシーンも不意打ちで面白くて何回も見ちゃった(笑)。

随所に「沖縄」を感じられる風景も描かれていて、観ていてもどこか懐かしさを感じる作品でした。

長編の「洗骨」のほうも観てみようかな・・・。
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