マクガフィン

オー・ルーシー!のマクガフィンのレビュー・感想・評価

オー・ルーシー!(2017年製作の映画)
3.4
人生どん詰まりで公私共に破綻寸前の四十路OLの自己解放の行く末は、痛々しいまでの爆走劇に。

英会話講師による、内から見た英会話と外から見た英会話の違いのような対比が面白く、監督の日本の英会話教室の違和感の切り口が上手い。『英会話教室に通ってもネイティブな英語は無理だよ』と聞こえてくるようでもある。

英会話教師役のジョシュ・ハートネットの日本とアメリカの対象的な正気の違いもよく、母国ではパッとしないが、英語が苦手な日本の特徴を活かして、日本では生き生きと輝く模様が良い。

イタい人間ばかりだが、それでも主人公の節子(寺島しのぶ)は突き抜けたイタさが可笑しくもあり、悲しくもある。
精神的歪みを象徴した部屋の汚さ。自己評価が高く、周りの評価と隔たりが大きく、若くて可愛い姪(忽那汐里)とマウント取り合いどころか、マジ喧嘩をしたりも(姪も良く考えれば似たもの同志)。極めつけは、英会話教室でのビジネス・ハグに本気になり、付き合ってもいないどころか連絡先も知らない男を追いかけてアメリカまで行くことは、想像の範疇を超えた展開で驚きの連続に。更にシュールなコミカルを挟むことでバランスを保つ。
姪との瑞々しさの対比は悲しく、アメリカに行った後のジョシュ・ハートネットと対象的のような、アメリカの方が日本より生き生きしている感じも良い。
失うものが少ないことも問題だと思えた。ゴミ溜めのような部屋は社会の中に埋もれてしまいそうなメタ的にも。

アメリカに行くと、前半の仏頂面と対照的な女を武器とした暴走も可笑しく、英会話教室で発音時に口を大きく開ける教えを実行した車での性交シーンは、全く役に立たない英会話教室の教えが唯一活かされて、抱腹絶倒に。初の長編映画製作とは感じない、伏線の使い方のセンスの良さに驚く。英会話ネームとTATOOの伏線も感心する。

女同志の口喧嘩や取っ組み合いなどの女性の一線を超えた取り乱し方の描き方に妥協なく、男監督では無理な気がした。(男監督だと、下手すると男尊女卑のレッテル貼られる可能性も)
女性監督だからか、主要女優3人(寺島しのぶ・南果歩・忽那汐里)の演技と演出が抜群に良く、まざまざとした模様が印象的で、今後の活躍が楽しみに。

海外目線的でもあり、女性目線的な邦画は新鮮で貴重に。「勝手にふるえてろ」の時も同様に思ったが、やはり女性監督による女性目線は重要で、量産されるキラキラ映画も、そのような女監督が作れば別物になり見られる位の作品も増えるのでは。
映倫区分のR15+はアメリカ基準かな。