やわらか

あゝ、荒野 後篇のやわらかのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
4.5
新宿ピカデリー金曜21:20の回。終了したのは0:00ちょうど。上着を羽織るために立ち止まってスクリーンから出て来る人たちの顔を見たら、みんな目が潤んでいた。若い女性もスーツ姿のおじさんも。自分も。
 
ボクシングって不思議なスポーツで。強くなるために異常な節制を要求されて、怪我したり、たぶん減量とか無理なトレーニングで寿命も縮んでしまうし。上手くチャンピオンになれても、引退したらジムのオーナーか飲食店の店主ぐらいで。結構な確率で身を持ち崩して逮捕されて。どう考えても割に合わない努力。でもそのスポーツに選手も観客も作家も俳優ものめり込んで行って。この「あゝ、荒野」、前後篇合わせて5時間を超えるフィルムの中には、そのボクシングの不条理な魅力が詰まっている。
 
2人の主人公と絡み合いながら自分の中の孤独と向き合う脇役たちを、助演陣がそれぞれの個性を活かしながら演じている。不器用な男性を包み込むようなセックスを表現した女優陣。孤独を映す新宿の街。終わってみればすべてが愛おしい。監督やスタッフ、俳優陣、この映画を作り上げた人たちの作品への気持ち。主演の2人や山田裕貴さんが完成までに費やした役作りに掛ける執念に対して心からの敬意と感謝を捧げたい。
 
後篇については前篇よりも甘い部分があって、新次の過去の因縁とかデモの辺り、取って付けたみたいだしちょっとドラマシリーズの総集編みたいだなと思ったりした。でも、最後の試合のシーン、それだけで言葉を超えて伝わる。これは映画。演技と分かっていてもあの場にいて2人の試合に居合わせたいと思える凄いシーンだった。
 
冒頭にあるように、寺山修司が好きで観に来た人、映画好きの人、菅田さん目当てで来た人、みんなが観れて良かったという気持ちを共有できるような映画で。声を上げて泣くような作品ではなくて、ただただ熱くなるような後味。自分にとって今年観た中で一番心に響いた作品。
 
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