かじられる

あゝ、荒野 後篇のかじられるのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
4.4
<私的邦画三部作 急>

左巻きも右巻きも渦であることには違いない。ただ右は開放を、左は内閉のイメージを想起させる。奇しくも二人ともサウスポーではなかったけれど。

遠目には同じに見える片側の渦は人知れず逆行し、点描に帰ると、力強く右へと弧を描き始めた。新次(菅田将暉)を追うように。

宿命に抗い、狂犬のように吠え続ける強烈なエロスは周囲を圧倒し、孤高の域に達した。バリカン(ヤン・イクチュン)もその後光を拝したひとりに過ぎない。過去を追い出すために。昨日でない今日を作り出すために。

その日、リングはさながら神々しい祭壇と化す。古代の艶かしい祭りのように血や汗が飛び、生死は運命の天秤に掛けられる。司祭は二人もあれば十分だ。孤独を囲った男がたがいのそれをぶち壊すように、復讐するように殴り合う。昏睡する意識の中でエロスは死の淵をさまよい、通底する。やがてフラットな世界は姿を消し、人々の生き方が照射される。

それでも殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ。死と舞踏した圧巻なエロスは無機質な社会に風穴を穿った。もっとも痛ましい形でこそ雄叫びは高く美しく響く。過日を打てぬ臆病者、気概のないお前にこの眼光は眩しかろう。
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