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あゝ、荒野 後篇のEDDIEのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
3.9
遂に宿敵・裕二との対決!とんでもない熱量で魅せるボクシングシーンに白熱しながらも、新たに芽生えたライバル関係が物語の後半を一気に加速させる。かに見えたけども前篇で温めた伏線があまり活かされておらず雑に感じた後篇でした。

総じて申し上げると本作の放つ熱量に圧倒されっぱなしで、ハッキリ言って面白かったです。前後篇合計304分も体感時間としてはそこまで長く感じませんでした。
ただし、前篇から示唆されていた新次と裕二の宿命の対決が終わってからは、その熱量を超えることができず、ラストは尻すぼみ的に有耶無耶な形で収束した感覚でした。

まず新次と裕二の対決がとてつもなく熱い。パンチの一つ一つが重く感じ、さらにはただのボクシングの試合には収まらないそれぞれの想いが投影され、やや反則紛いの行為まで及ぶわけですが、最後はとにかく打ち合い打ち合いで雌雄を決するわけです。
ここまでが後篇の序盤でボルテージが一気に上がりきったところで、突然の虚無感に陥ります。
生きる目的、恨みの相手との対決を終え、すべてを出し尽くした新次はこれまでとは打って変わってボクシングに身が入らなくなります。

ここで立場逆転とばかりに親友となった建二が台頭するわけです。
後篇のメインテーマはまさに友情を育んできた新次と建二の対決、新たなライバルの誕生となります。
クライマックスはまさに彼らの一騎討ちとなるんですが、これがめちゃくちゃ激しくてもはやボクシングを逸脱した殴り合い。正直一つのヒューマンドラマとして考えると、2人の対決は胸にグッと来るものがあったし、とにかく熱かったのが感想。ただ色々としっちゃかめっちゃかなったあらゆる伏線を無理矢理に最後の2人の試合に集めてきたことで、ちょっと言葉悪いですが茶番にしか見えなかったんです。

今野杏奈の濡れ場が見れるなどの収穫はあったものの、あれほど滾らせてくれた前篇からの流れをとても雑にまとめたなという印象。
ラストはかなり賛否両論になりそうな展開ですが、これまでせっかく丁寧に作り上げた伏線を完全に観客の解釈だけに委ねるのはいかがなんでしょうか。

文句をつらつらと書かせていただきましたが、とにかく俳優陣、特に主役の2人は前後篇通して素晴らしかったです。
菅田将暉については前篇のレビューに書かせていただきましたが、建二を演じたヤン・イクチュンは吃音という難しい役柄だけでなく、父親が日本人、母親が韓国人のハーフであり、父の虐待に長年苦しんできた青年という細かく設定された人物描写まで見事に体現。もちろんボクサーとしての体づくりも見事なものでした。
私はヤン・イクチュンの出演作は初めてだったんですが、彼の評価を高めたという長編デビュー作『息もできない』は是非観てみようと思わせられました。それぐらい演技も圧倒的でした。

ほか、ユースケサンタマリアや髙橋和也、でんでんらベテラン俳優の存在感たるや流石というものでした。

苦言も呈してしまった後篇ですが、作品として『あゝ、荒野』はとても素晴らしかったと思います。近年の邦画の中でもかなり熱量ある力強い作品でした。

※2020年自宅鑑賞111本目
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