茶一郎

ボヘミアン・ラプソディの茶一郎のレビュー・感想・評価

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
3.7
 クイーンの伝説的名曲誕生物語なので、クイーンのファンは失神必至。さらに、この地球上で文化的な暮らしをしていれば聞いた事が無いなどあり得ないあの名曲群が生まれる過程に、ファン以外もテンション爆上がりでしょう。
 さらにさらに、本作『ボヘミアン・ラプソディ』はそのクイーンの超名曲の数々にストーリーテリングの拙さを助けられながら、保守的な家庭に生まれた一方で、自由を手に入れようとした孤独な男フレディの物語にしっかりと帰着する娯楽映画としても優れたものでした。良くも悪くもフレディに深く感情移入したブライアン・シンガー監督天晴れです。

 本作『ボヘミアン・ラプソディ』の最も驚いたニュースは、監督ブライアン・シンガーが撮影の途中で20世紀FOXから解雇されたというものでした。その理由として毎回2時間以上の特殊メイクをしていたラミ・マレックを他所に、ブライアン・シンガー監督がしていた「遅刻」が大きいものだったという事で、これには劇中で何度も大遅刻をしていたフレディも笑えない。
 交代したデクスター・フレッチャー監督は、本作同様の伝記映画『イーグル・ジャンプ』が記憶に新しい俳優出身の監督。スコットランド版『マンマ・ミーア!』と言われた『サンシャイン 歌声が響く街』で高い評価を得たというのが、本作起用に繋がったのでしょうか。

 しかしながら本作『ボヘミアン・ラプソディ』はその監督交代劇も感じさせない、しっかりとブライアン・シンガー監督の作品になっていたように思いました。そのブライアン・シンガー作品とは、ミュータントを人種的マイノリティとして捉え成功した『X-MEN』シリーズから始まる、自身がバイ・セクシャル、セクシャル・マイノリティである事が色濃く反映された作品です。
 そのため、この『ボヘミアン・ラプソディ』は、セクシャル・マイノリティだと語られているフレディの葛藤に非常に重きを置いています。それが音楽映画の側面を弱め、伝記映画の色を強めているので良くも悪くも。
 その葛藤を『Mr.Robot』のラミ・マレックが、あの大きなお目目で演じる切なさたるや。もうこれは乙女フレディの叶わぬ恋の物語、猫映画です。

 上述と重なりますが、正直、ブライアン・シンガーの語り口は冗長で、クイーンの名曲が無ければしんどい所もありました。しかしラストの21分は圧巻。これはもう映画館の音響で体感すべき、というか映画館で体感しないと観る価値が無くなってしまうタイプの映画です、『ボヘミアン・ラプソディ』。
茶一郎

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