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ボヘミアン・ラプソディのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
5.0
ハッキリ言ってニワカである。1985年は音楽チャリティの当たり年だったのか「We Are The World」のVを見るために、深夜までどこかの地上波にかじりついていたような覚えがある。そして「LIVE AID」。やたら盛り上がる海外に比べ、受けている日本の地上波に出てくるミュージシャン達はどうにもダサく、世界に追いついていけない自分を実感して悔しかった。

Queenを初めてしっかりと聞いたのは、それからやっと2~3年後だったように思う。ヘヴィメタルやハードロックつまり「重くて速い音」が好きな自分にとっては、その時はそれほどハマれなかった。しかし「『ボヘミアンラプソディ』はオペラや!」とハマる級友の言葉は確かに引っかかっていた。

それから大学生になり、アメリカに行き、戻って就職して、結婚して離婚してまた結婚して…と大人になってきた。FMで、TVで、街中で、折に触れて流れてきたQueenの楽曲に触れるにつれ、メロディや歌詞が皮膚に吸い付いてくるほどにも感じるようになってきた。要は「キャッチー」なのだ。そして、その背後にある「情感」に、やっと気づけるようになってきたのだ。

音楽のことはよく知らないが「制作」のことなら結構分かる。Queenとなって初めてアルバムを作る彼らのレコーディングのあり様がめちゃくちゃ楽しい!ドラムの皮やピアノの弦にコインやガラス玉を撒いて弾いて鳴らして歌って録って…どんな繊細に作ってたんだと思わせるアルバムの裏舞台は、真逆に無造作さと奔放さに満ちている。

そして「ボヘミアンラプソディ」のレコーディングが最高だ。もうこれは観るほかない。マルチトラックを備えたアナログテープに何度もオーバーダブを繰り返し、しつこくケレン味を足していく。全員でコーラスを歌い上げる瞬間、楽しすぎて涙が出る。

涙といえば、哀しい別れもある。フレディが「本当の自分」に気づくたびに、哀しくつらい別れがやってくる。才能や衝動と表裏一体の孤独。一旦孤独になれば避けられないスランプと逃避のパーティ。イヴ・サンローランの孤独を支えたのはピエール・ベルジェ。フレディの孤独を支えたのは誰なのか。「本当の自分を見つけたら、また会おう」という言葉が、シンプルで貴重だ。

単なる音楽体感映画では無い。ベタだなと思わせるほどのエピソードや台詞の配置は、実は考え抜かれている。フレディの人生の起伏を、観客が経験してきた様々な感情に重ねてゆく計算だが見事なのだ。成長し、諍い、旅立ち、傷ついて、帰還する、まさに王道の英雄譚。帰還するフレディを受け入れるブライアン・ロジャー・ジョンの侠気に魂震える。「おれも誰かに対してこうありたい」と思うのだ。

孤独を経て、つまらない日々を旅して、「本当の自分」に向き合って戦う、全ての人々が「チャンピオン」なんだ。

心にまとわりついた垢泥みたいなものが、揺さぶられ振るわされ吹き飛ばされて、かなーりキレイになった感じがする。何度でも観ようと思う。勉強にもなる。ブライアン・シンガー監督、さすがだわ。
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