その熱い空気の振動を、ダイレクトに体の全ての表皮と内蔵で感じたかった。
現実と「そこ」を隔てるスクリーンを飛び越えて、声を張り上げ拳を挙げて地面を鳴らして、わたしもみんなと一つになりたかった。
だけどふかふかの座席に沈んだ体は動かなくて、「わたしってこんなにつまらない人間だったっけ」
そんな風に、どこか静観している自分を見つけてしまった。
わたしが歌うのはひとりきりの部屋の中、もしくはカラオケボックスで精一杯。
酔っ払いたちは、安っぽいサウンドも不安定なメロディも陳腐な歌詞も聞いちゃいない。
だけど知ってるよ。
大好きな歌を大好きな人と歌う心地よさを。
不揃いな音が集まって奏でる、不愉快なのに愛おしいメロディを。
ステージの上の震えるほどの緊張と、少なからずの高揚感を。
生の爆音に、全ての細胞が酔いしれる様な快感を。
ねえ、「そこ」で歌うのはどんな気分?
きっとあなたにしか分からない。
だけど、その大きな熱量の一欠片ずつが、きっと世界中の誰しもの心にあるんだね。
それらが一つに集まった「そこ」は、一体どれほどに熱いんだろう。
映画館なんかじゃ分からないよ!なんて言ってしまう私は、もしかしたら不感症なのでしょうか?