亘

テルマの亘のレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
4.0
【抑圧からの開放】
ノルウェー・オスロ。テルマは親元を離れ都会の大学に通う。厳格な家庭で育った内気な彼女は初めて夜遊びや恋をする。一方そのころから彼女は謎の発作に見舞われる。それは彼女が知らない彼女自身の一面だった。

自らが持つ謎の能力に気付くテルマの苦悩と成長を描いた作品。特殊能力・発作は一見不可解なものではあるけど、それらとの出会いを通して自己との出会いや親離れという普遍的なものを描いている。そして今作は特に時折挟まる象徴的なシーンが効いていて、彼女の閉塞感や心の揺れ動きを追体験出来てテルマの苦悩を感じる。今作は下のようにいくつかの章に分けられると思う。

<1.厳格な生活>
テルマは、親から管理されていた。彼女の家庭は厳格なキリスト教徒で飲酒を禁止していた。大学生になって田舎を離れてからも毎晩母親から電話があるから夜遊びもできない。彼女自身親は厳しいと感じても親離れしきれていない。だから親に従って夜遊びはしないし友達も少ないまま。彼女は親の言いつけと自分で作ったバリアで囲まれた狭い世界で暮していたのだ。

<2.新たな世界との出会い>
平凡な彼女の生活は発作と初恋から変わっていく。ある時大学の図書室で発作に倒れる。そしてその時居合わせたアンニャという女子学生との再会からテルマはアンニャと親しくなる。アンニャは都会出身で酒も飲むし友達が多く夜遊びもする。垢ぬけていてテルマとは正反対。だけど次第に2人は互いに惹かれていく。特にアンニャが彼氏と別れてからは、2人は本格的に恋に落ちる。テルマにとっては初恋だからアンニャへ感じる初めての感覚が初々しく描かれる。

<3.葛藤>
ただ厳格なキリスト教徒の家庭で育った彼女にとって同性愛は"罪"。アンニャに惹かれつつも同性に惹かれることに彼女は自己嫌悪に陥る。親に自らの"罪"を告白しようにも踏ん切りがつかない。ただただアンニャへの思いは募り、性へも目覚める。彼女は[厳格な親・キリスト教の教え vs 募る自らの思い]というジレンマに陥るのだ。

<4.自らの謎>
一方で彼女は発作の原因究明を通して自らの謎に接し始める。彼女は幼少時代の記憶がないことに気付き、亡くなっていると聞かされていた祖母が生きていることも知る。祖母を初めて訪ねると祖母は口も聞かない。そしてテルマが検査を受けている最中にアンニャが失踪してしまう。その後彼女はテルマの失踪に罪悪感を抱き自己嫌悪に陥り帰郷する。このあたりで時折挟まる幼少時代のシーンは大きな謎を残す。テルマには記憶がないだろうが、彼女には弟がいたのだ。この謎がその後のシーンに橋渡しをしているように思う。

<5.信じていた世界の崩壊>
故郷では、遂に父親がテルマに隠された能力について明かす。彼女には、強く念じると人を消せるという能力があったのだ。そしてその能力は祖母からの遺伝であった。祖母は親戚を消してしまい、幼いテルマは、両親が弟ばかりに構うことに嫉妬し弟を消してしまった。そして父は彼らの記憶を消して彼らを全てをコントロールしようとした。祖母が口をきけないのもテルマが幼少期の記憶がないのもコントロールのせいなのである。しかも父は再び薬を投与しテルマの記憶を消そうとする。テルマにとってこの事実は、これまでの信念を覆る事実だっただろう。それまで絶対的だと信じていた両親が絶対ではない。しかも再び彼女に危害を加えようとしているのだ。

<6.彼女自身の解放>
彼女は父の存在に危機感を感じた。そして自らの力を使って再び幸せに暮らそうと思い立つ。父を消し自らの念でアンニャを復活させるのだ。父が湖上のボートで燃え上がるシーンはショッキングだし母を振り切って家を飛び出しシーンは、かつての受動的なテルマとは全く違う。ラストシーンでアンニャと話す様子は、テルマが自らの力で新たな未来を切り開いた希望を表していると思う。

印象に残ったシーン:テルマがパーティでタバコに酔ったときの空想シーン。テルマがプールに閉じ込められる空想シーン。
亘