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坂道のアポロンのardantのレビュー・感想・評価

坂道のアポロン(2017年製作の映画)
4.8
 映画の王道は、若者たちの姿を描くものであることを、この作品を観て、あらためて思った。 
 しかし、この映画は、若者たちを描いていたが、現在の若い人たちのためのものではなく、団塊の世代より少し遅れた昭和20年代後半生れの我々の世代に対するオマージュであり、レクイエムのように思えた。
 舞台は1966年、その頃、金髪に染めた高校生なんかいなかったと思ったら、元々金髪だった。それで、なぜあの時代に設定する必要があったのかとの疑問は氷解した。
 ディーン・フジオカ演ずる学生運動くずれの男とその恋人。その恋人が「もう、お嬢様なんかじゃない」と髪を自分で切るシーン。男が、「一緒に闘った仲間達に悪い」と東京に戻って行くシーン。まるで、「四畳半フォークの世界」。
 後半、画面の片隅にちらっと見えた、ショーン・コネリー主演の『王になろうとした男」のポスター(公開、1975年)。
 極めつきは、文化祭で演奏されるロック(!)ではなくグループ・サウンズの『ガール・フレンド』。それは、タイガーズでも、テンプターズでも、スパイダーズでもなく、末期に活躍したオックスの曲だった。
 原作者の小玉ユキも、脚本の高橋泉も、監督の三木孝浩も遅れた世代のはずだ。だれが、取り入れたのだろう。

 主演の知念 侑李は上手ではなかったが、誠実さが伝わってきたし、小松菜奈には、大女優になる資質を感じた。ジャズのセッションシーンについては誰か書くだろうから割愛。ただ、ジャズを映画に使うと、映画のグレードが一段階上がるような気がするのは私だけなのだろうか。
そして、本作品を映画館で観てよかったと思った。原田マハは書いている。「映画は映画館で観てもらう。そのために、すべての映画人が努力しているのよ」と。

 観終わった帰り道、同じように高校生の友情を回想する藤田敏八監督の『帰らざる日々』を、猛烈に観たくなった。あれからもう40年も経っていた。
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