きえ

ボンジュール、アンのきえのレビュー・感想・評価

ボンジュール、アン(2016年製作の映画)
5.0
久々にスコア5.0を付けた!
映画としての完成度がどうのこうの、そんな事は分かりません。関係ありません。
あるのは自分の心にどう響いたか、それだけ。理屈なんていらない…
そんな風に映画鑑賞の原点に立ち還らせてくれた。映画を見終わってこれ程満たされた気持ちになったのはいつぶりだろう。。

まず私はダイアン・レインが大好き。
キッカケは『運命の女』の艶やかな演技でビビビっとやられた事。若い頃よりも目尻にシワの入ったアラフォー以降が特に素敵で、あんなふうに年を取りたいと思う憧れなのだ。

そんなベタ褒めダイアンの9年ぶりの男女物。因みに9年前と言うとリチャード・ギアとの『最後の初恋』(素晴らしくベタだけど好き)。最近はお母さん役ばかりで、さすがに年かな〜なんて思ってたけど、スクリーンにダイアンが登場した第一声は『うわぁ何て素敵なの〜』だった。とにかく美しい。”若さにはない美しさ”と言うか、その表情だったり、立ち居振る舞いだったり、話し方だったり、形のいい大きいおっぱい健在の美ボディだったり、ほんと素敵!この時点でレビューのスコア付けは甘くなってる事をご了承下さい…(笑)

ダイアン褒めはこのくらいにして…
(すみません熱くなり過ぎた笑笑)

この作品は超多忙な映画プロデューサーを夫に持ち一人娘も独立して人生第2ラウンドを迎える52才のアメリカ人女性と、夫の仕事仲間の独身のフランス人男性によるカンヌからパリへのロードムービー。

で、なんとこれ、大巨匠フランシス・フォード・コッポラの奥様で本作の監督エレノア・コッポラの実体験を元にしたお話なのだ。ダイアン演じるアンに自分自身を投影させながらも、それは実は観客である女性自身全員だ。ウィットに富んだ会話、テンポに溢れ中だるみのないストーリー運び、アメリカ人とフランス人の対比の面白さ、美しいカット割りなどとてもじゃないけど80才のおばあちゃんが作ったとは思えない瑞々しい感性。監督だけでなく脚本も自らこなしたと言う点も凄すぎる!

アンの夫は紛れもなくFフォード・コッポラを投影していて『カンヌ国際映画祭』に夫婦で参加していた所から物語が始まると言う点も面白い!

女が人生の岐路に立つお話は過去にも沢山あったと思うけど、このアンに関しては、そもそも人生の岐路に立っている自覚さえない。岐路に立つ自覚って選択肢が色々あると言う自覚の事だと思うけど、長年家族に自分を合わせ生きて来た女性にとって、選択肢はそのまま人生は続いて終わると言う事だけだろう。少々の不満や寂しさはあってもそう言うものだと何処か諦めが先に立つ。このあたりは凄く共感出来る。おそらく女性なら誰しも。

一方男の方はと言うと、フランス人特有の⁈この世の基本は男と女みたいなのが随所に出てる。恋人同士であろうが単なる友達だろうが仲間の奥さんだろうが相手が何歳だろうが、目の前に女がいればエスコートする。女として認識した上で会話する。若い女だけが女と思ってる未成熟な日本人とは違う(わざとイヤミってます笑笑)。

ただこのフランス男、ちょいちょい失礼な質問もするしちょいちょい怪しいのだ。特に金払いが??となる時点で何なのこいつ💢って私ならなる!
観客もこの男ほんとに大丈夫?なんて疑心暗鬼になるんだけど、そこは女の扱いに長けてるフランス人男、そう思わせながらもやっぱり魅力的なものを持っているのだ。それが”夫にはない”と言うとゲス不倫の口実みたいになっちゃうのだけど、そう言う下世話な物語とは違う。

そして単に目的地に行く(カンヌからパリは車で7時間)だけの人生ではなく、折角ならその過程を楽しむ…そこにこのアメリカ人女性とフランス人男性の大いなる価値観の違いが現れる訳だけど、恐らく多くの人が目的地に早く着く事だけを人生の成功だと思ってると思う。うだうだ道草食って達成が遅れる事を時間のロスだと考えるからだ。

しかし、無駄に見える遠回りの道の中にこそ、可愛い野花や綺麗な石や癒しの景色や遊びがあったりする。こうして考えると人生って何なのだろう?何を持って成功と言うのか、何を持って幸せと言うのか、2人の男女の道草が多くの物を投げ掛けてくる。想像以上にいい映画だ。

このフランス人男は、食に拘る。『食は魂だ』とまで言う。作中には様々な美味しいお料理と美味しいワインと実在の有名レストランと、そして野外の美味しいシチュエーション(こう言う発想こそ大事)が登場する。胃を満たせば心が円やかになる。円やかになれば人にも自分にも寛容になる。彼とのひょんな時間の中で次第にアンの固定化された心も変化して行く。人生における大事なもの、自分自身が先の人生に望むもの、悲しいかな人間は自分一人だと気付けない事も多い。誰かの価値観に触れ、誰かの生き方に触れ、誰かの言葉に触れ、気付きを貰える生き物なのではないだろうか。

キザとも思えるフランス人男を母国語フランス語と流暢な英語で演じるアルノー・ヴィアールがハマり役過ぎる!冒頭登場した時は単なる脇役オーラしかなかったのに映画が終わる頃には私まですっかり彼の手中に(笑) 人生を愉しめる男って魅力的だもん。

人生半ばも過ぎた男と女は表面的には幸せで充実してるように見えても色んな悲しみや辛さを経験してきているものだ(年を重なるとはそう言う事だろう)。お互いの心の痛みも分かり合える大人同士でありながら、異性に好意を持つ心もまだ衰えてはいない。フランス人男が言う。『フランス人は家族を大切にするが、異性に湧き上がる気持ちは人間として自然だ』と。つまり惰性で夫婦を続けたり男女が一緒にいる事はない。あぁ日本人である事を後悔する(・_・;

ラストはこのキザ男が、もうねもうね、こんな筋書きされたら1000%落ちるでしょー!(私)って事をする訳(私は途中詐欺師かと思ってた笑)。おばあちゃんこれも実体験?話作ったとしたらどんだけ〜ってあっぱれです!

人生の岐路、さあアンはどんな答えを出すのだろう?とは言うもののこの作品は仕事に追われる夫と会話に長けてそれでいて聞き上手で美味しい料理と美しい景色を見せてくれた新しい男の二者択一物語と言う単純な主旨ではないように思う。最後のダイアンのカメラ目線は観客それぞれに答えを預けてる。人生はやっぱり複雑。そして一人一人違うのだから。このおしゃれな終わり方含めおばあちゃん監督ブラボー!👏

これは全女性に贈る人生の先輩おばあちゃんからの人生賛歌です。そして男性も多いに自分の人生を振り返るそんな視点が詰まった作品になってると思います。ほんとに良かった。清々しい!

今度生まれる時は自由恋愛の国フランスに生まれたいと本気で願う笑笑
きえ

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