なべ

検察側の罪人のなべのレビュー・感想・評価

検察側の罪人(2018年製作の映画)
2.6
 なんだろう、インパール作戦や新興宗教など、本編に関係ない味付けのノイズ感がひどい。そのせいで物語に集中できない。物語のエッセンスに使うにはインパール作戦は存在が大きすぎる。いや、本編よりずっと闇深い話だからさ。こうなると原作にないインパール作戦を持ち込んだ原田眞人の意図がよくわからない。教養自慢? インパール言いたいだけやん。詳細は省くけど、要は、軍の指導者があほだと部隊は壊滅的なダメージを受けるって話。話自体はとてもおもしろいので興味のある方はWikiって。でもこれ、検察側の罪人と全然関係ない話だからね。

 やり手の検事が自らの正義を遂行するために闇堕ちするピカレスクロマンにすればいいものを、法的な正義と倫理的な正義のせめぎ合いのような話にしちゃうから、なんだかスッキリしない微妙な仕上がりに。
 本来なら、悪を罰するために法を犯すベテラン検事と、その罪を暴く新米検事というわかりやすい対立構図なはずなのに、そこんところが曖昧になってて、ラストのニノの叫びはちっとも響かない。叫びたいのはこっちだよ。
 原作では最上毅を逮捕に導いた沖野啓一郎が、自分が貫いた正義は果たして正しかったのかと疑問を持つところで終わるのだが、映画の最上は逮捕されることなく、人の道を踏み外したキムタクが、悪びれることなく、「一緒に政治家の悪事を暴こう」とニノを誘う。はあ? こいつ闇堕ちすらしてないじゃん。どういう神経してるんだ?となるんだよなあ。監督はニノのあの「あぁーーーーーーっ!」に何を感じて欲しいのだろう。上司の罪を暴けず、反省も後悔もさせることなく、今後さらに大きな権力を手にするであろう元上司になす術もないあぁーーーっ!なのか? ぼくは、釈然としない結末で観客をキョトンとさせた自責の念でのあぁーーーっ!に感じちゃったよ。

 本作のキムタクはいつもの「何を演じてもキムタク」とは違ってると言われてるようだが、そうかなあ? やっぱりキムタクじゃん。
 一応、悪に染まる検事をカッコ悪く演じてはいるけど、最上毅が背負ってる業のようなものを感じさせたかというと、答えはNo!だ。穴を掘ってヘロヘロになった姿でさえやっぱりカッコいいよ。シャツも白いし。せめてシャツは汚せよな。韓国映画みたいなどうしようもない悲壮感を全身から漂わせてくれたら最高なんだが、それは無理な注文なんだよな。で、結局キムタクじゃん!と。
 対するニノは、裁かれなかったサイコパスを精神的に追い込み、過去の犯行を自白させるシーンで、圧倒的な存在感を見せたものの、それ以外はパッとせず。松倉への謝罪にこだわるところなどは、ぼくには理解不能で全然共感できなかった。
 沖野の事務官・橘沙穂にも原作にはない潜入ルポライターの設定が新たに与えられているんだけど、この設定いる? 冤罪を生み出す検察の暴走を暴きたい彼女の正義も加えたかったのかもしれないけど、これもノイズなんだよな。
 原作の改変はそれがより効果的な場合のみ行って欲しい。本作に関してはことごとく裏目に出てる。生かせない新設定など誰も求めてないから。
 ああ、ベテラン検事が冥府魔導の道に進む手助けをする諏訪部ってヤクザがいるんだけど、これはよかった。最近はすっかりいい人役が多くなった松重豊が、久々に不気味な悪役をのびのびと演じていて、はっ、もしかしたらメフィストフェレスなのか? これはファウストなのか⁉︎と思ったくらい。ちなみにファウストではなかったよ。

 一応最後まで観られはしたけど、エンドロールでとても残念な感じに包まれたと言っておく。いつものあかん邦画だったよ。物語のポテンシャルがわかるだけに、それを発揮できない原田眞人は罪深いなとも感じた。これ、韓国がつくったら絶対おもしろいヤツやん!って思った人は多いんじゃないかな。ぼくなんてキムタクとニノをイ・ビョンホンとチュ・ジフンに置き換えて観てたもんね。これ最高じゃね?

 他にもレビューしたい作品があるんだけど、こき下ろさないように心穏やかに本作のレビューを書くことにかなり手間取ってしまった。くそう検察側の罪人めー。
(ドルビーシアターで公開されてるガメラ2はなかなかでしたよ。特撮ファンはぜひ!)
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