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ミスター・ガラスのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

ミスター・ガラス(2019年製作の映画)
4.0
M・ナイト・シャマラン監督まさかのユニバース化ヒーロー映画第3弾。
今作ミスター・ガラスは過去2作で出揃ったキャラクターたちが交わるいわばシャマラン版アベンジャーズ...?といった位置付け。
必ず過去2作を観てから観賞しましょう。観てないと色々と意味わからないと思います。

レビューもネタバレなしでは難しいので、以下観賞済みの方向けに。



<以下、ネタバレあり感想>


【1】ミスター・ガラスという男
◼️ヒーローが現実にいたら...
特別な力を持った人間が現実にいたらどうなるのか?
シャマランワールドにおける特殊能力者は、普通の人より「ほんの少しだけスゴい」
彼らは空を飛んだりビームを出したり肌の色が緑だったり赤かったりはしないので、静かに暮らしている限りは特別な人間だとは気付かれない。

MCUではヒーローは人々に受け入れられ、
DCFUでもヒーローの力による負の影響が描かれはしているが、基本的に世界はヒーローたちの存在を認めている。

けれど、現実に超人的な能力者が現れたら、人々は拍手喝采で受け入れてくれるのか?
人と違うバケモノとして恐れられ迫害されるのでは?
普通と違う人々が畏怖され差別されるのでは?という点はX-MENシリーズが近いテーマを描いている。それでもX-MENシリーズは、
・人間vsミュータント
・人間と共存を探るミュータントvs人間を支配したいミュータント
という善悪対立が基本軸だが本作は一味違う。

ヒーローvsヴィランという善悪対立構造を設定した上で、
・ヒーローがいるからヴィランが現れる。だから普通の人々にとっては両方同じく迷惑
・ヒーロー/ヴィラン関係なく特別な力を持つ者が世界を変える
っていう新しい価値観の対立軸を提示してみせる。

人間には根源的な欲求として承認欲求/自己実現充足がある。
他より優れた能力を持ちながら隠れて生きていくという選択をできる人間は少なく、自分を理解してほしい、認めてほしい、自分こそが人類の新しい可能性だと思うのは自然なこと。

X-MENシリーズにおけるマグニートーがそうであったように、ミスター・ガラスはそう考える。
彼の根っこは悪事を働くことにあるのではなく自己実現にあるのだ。

本質的な部分において、イライジャは『私がアイアンマンだ』と宣言したトニースタークと変わらないのである。


◼️ Glass
本作を観て、
英語の「Glass ceiling」という表現を思い出した。
「ガラスの天井」と訳され、女性のようなマイノリティが組織内で昇進することが難しいという状況を、上に行こうにもまるで目に見えないガラスの天井があるかのように阻まれてしまうとした比喩表現。
この表現において、ガラスは「見えないが固い物質」として扱われている。

本作の原題は『 Glass 』で邦題は『ミスター・ガラス』
これはガラスのように壊れやすい男:イライジャのことを示している。
※過去2作内で「ミスターガラス」の呼び名は出ている。

壊れやすい男イライジャにとって、
「Glass」は壊れやすい物質。

そして、本作のラストで、これまで見えない力(組織)によって封じ込められてきた能力者たちの存在はMr.ガラスの手によって世界に開放される。隠されていたマイノリティたちの上にかぶさっていたガラスの天井は、壊れやすい男によって粉々に破壊されたのだ。


◼️これはオリジンだった
『リミテッドシリーズではなく、オリジンだったんだ』
というイライジャのセリフ、限定版と訳されていたので少しわかりづらいですが、これはアメコミのシリーズの形式のこと。

たとえばスパイダーマンでいうと、
クモに噛まれて/ベンおじさんが亡くなって/ピーターがスパイダーマンになって... っていうヒーロー誕生の最初の話が『オリジン』(原点/原典)

リミテッドシリーズっていうのは4-5号完結くらいのミニシリーズ的なもの。
たとえば
「今回はスパイダーマンがキャプテン・アメリカ/ウルヴァリンとチームを組んでNYを襲撃したテロ組織と戦う話を5話でやります」的な。

つまりイライジャは、
アンブレイカブルにて
「飛行機や列車爆破事件の犯人とヒーローが対決するリミテッドシリーズ『アンブレイカブル』のラスボスになったよ俺。やったー」

今作にて
「俺はいちリミテッドシリーズのキャラじゃなかった!能力者の存在を世界に開放するスーパーヴィランにしてスーパーヒーローの『Mr.ガラス』だったんだこれはオリジンだったんだすげえええ!」
へと進化した。

自分は無意味な存在なのではと思い続け、生きる意味を探すために能力者を探し求めてきたイライジャにとって幸福の幕切れだったというお話。


【2】キャラクター
◼️Mr.ガラス
サミュエルLジャクソン演じる、Mr.ガラスこと壊れやすすぎる男イライジャが『アンブレイカブル』以来19年ぶりにスクリーンに登場。
前作では具体的に見られなかった彼の知能の高さ/能力がたくさん描かれていてよかった。
コスチュームもアメコミのヴィランっぽくキマっていてGood。
ネクタイにMGイニシャル入ってるし笑
名前通りの「ガラスでスパー」のシーンはびっくりした。

ベストシーンはケヴィンと対峙して名を名乗るシーン。
『First name,Mister. Last name,Glass.』
マカヴォイ演じるキャラクターにサミュエル演じるキャラが車椅子に座って話しかけるっていうのがよかった。
彼はヴィラン版プロフェッサーXでもありニックフューリーでもあるという暗喩か。

ネタ面でも、前作は階段のシーンが最高だったけど今回も見せ場あり。
まさかのビーストアタック → メキメキ
は他人事ながら「ウギャア!」って声あげそうになった。爆笑。最高。

◼️ケヴィン
イライジャの尺が意外と短かったこともあり、登場時間がいちばん長かったのはケヴィンだった。
2作目ということもあって、マカヴォイの演じ分けはさらにパワーアップ。
着替えをすることなく演技のみで人格変更を多彩に見せてくれた。
ストロボの仕掛け面白い。必見。
あと必死全力のベアハッグがデヴィッドにイマイチ効かないの超最高だった。

◼️デヴィッド
なぜ。。なぜスーパーヒーローのデヴィッドがこんな。。
あまりにも理不尽すぎるよシャマラン監督。。
とはいえ作品全体のプロットからすると必要不可欠な展開だったともいえる。
大きな池とかではなくあんなちっぽけな水たまりで、っていうのが無情でよい。

◼️ジョセフ
開始早々彼が登場して「うわあっ」って歓喜。
19年前の子役をそのままキャストしてくれた。
前作で結実した「パパはスーパーヒーローなんだ!」っていうジョセフ少年の願い。
あれから19年がたち、本作では彼がデヴィッドのサイドキックを務めているという胸熱な展開。
この、短くも幸福な序盤があるからこそラストが引き立つ。

◼️ケイシー
『スプリット』での彼女は最高だったけど、今作はちょっと薄かった気がする。
ケヴィンに対する共感や叔父の件の克服など、前作の事件からたった3週間後という設定なのにいろいろと乗り越えるの早すぎでは??と思ってしまった。

◼️ステイプル女医
見ていて不安になる顏。メインキャラ3人に対して
「あなたたちはスーパーパワーがあるって思い込んでる精神異常者なの」
って諭しているが、
「だったら監禁設備に力入れすぎですよねえええ?」
って思うし、そもそも観客は彼らがガチ能力者であることを知っているので、ここを疑う気持ちになれないのが痛い。
『アンブレイカブル』では序盤観客もデヴィッドの能力に確信をもてていないので、銃のシーンの緊迫感やばかったが、今作はそういう感情がもはや起こらないので響かなかった。

だから「この人たち何か裏があるな」とは思っていたものの、
まさかラストそうくるとは思ってなくて、2作かけて築いた3人の扱いに衝撃を受けた。
ココは賛否分かれるだろうけど、個人的には驚いたのでアリ。


【3】演出
◼️未公開シーン
過去作の未公開シーンの使い方が抜群だった。
・イライジャ少年の遊園地のシーン
・ジョセフの寝室のシーン
特に後者はあまりにも完璧に物語にハマっていたので
「どうやってジョセフを若返らせたんだろう??CG??」
とか一瞬思ってしまった。

あと列車のシーンもどうやってはめ込んだのか謎。
さすがにホームから見送る親子と車内の父親は今回撮影したと思うので、中間の画像とつないだのか??スゴい。
シームレスに過去作とつながってたので「ウッソでしょ??」って声出てしまった。
冷静に考えてみると「父親が列車に乗ってたからってそれただの偶然ですよね」ってことでしかないんだけど、なぜか観賞中は「そういうことかあああ!ミスターガラスすげええええ!」って感情になってしまった。
たぶん前作の映像が出たことで冷静な判断力を奪われていたんだと思う。すごい。

◼️オオサカタワー
名前笑
序盤から意味ありげにしつこく存在を連呼されて、スーパーマンvsゾッド将軍とまではいかなくともビーストが壁面を駆け上がったりガラスが派手に割れまくったりするんだろうなああ!
って観客の期待をあおる。
→からの屋敷前での俯瞰地味対決( ゚Д゚)
行かないんかい!

◼️エンドロール
過去作の映像多用しててステキ

【4】減点ポイント
◼️終盤の展開
謎の組織は設定としてはよかったけど、普通のレストランでミーティングしてますみたいなのがなんかよくわからんかった。彼らの集まりを前半でそれとわからないようにもっとしつこくチラ見せしておけばよかったのになと思った。

◼️デヴィッドの扱い
ラストはまあわからなくもないからいいとして、イライジャとの絡みが薄くて、結果デヴィッドのキャラが薄く弱く終わってしまったのが不満。
デヴィッドとイライジャはバットマンとジョーカー、プロフェッサーXとマグニートーのような関係性だったはずなのに、そこが薄くなったまま彼らの物語が終わってしまったのが不満。

◼️売店
作品関係ないけどパンフレットの販売がなかった。ウソでしょ。
アンブレイカブル/スプリットの紹介とマカヴォイの全人格紹介ページ込みで構成したパンフ販売はマストだろうに。。
おかしい。こんなことは絶対に許されない。
( ゚Д゚)
ついでに言うと、グッズ販売もゼロでポストカードすらなし。
劇場入口に上映中作品のポスターずらっと並んでるのに当然のようにミスターガラスはなかった。
そうかこれは本作の存在をなかったことにしたい謎の組織の仕業なんだそうに違いない。

【スコア】
★4.0くらいですかね。
終了15分前くらいまではもうちょい高得点の勢いだったんですが、ラストの2段階の結末が個人的にはもう一歩響かなかったので若干失速しました。
とはいえ、過去2作観ている人は満足できると思います。
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