TAK44マグナム

マッド・ダディのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

マッド・ダディ(2017年製作の映画)
4.6
愛している。
だから殺させてくれないか。


ニコラス・ケイジの凄まじい顔芸が炸裂する日常破壊系ホラー。
セルマ・ブレア共演(どちらかというとセルマ・ブレア主演でもおかしくないぐらいの比重です)。
ランス・ヘンリクセンも終盤で大活躍します。
監督・脚本は「アドレナリン」シリーズのブライアン・テイラーですが、いつもの共同監督であるマーク・ネヴェルダインとは本作では組んでおらず、ソロ活動です。
ニコラス・ケイジとは「ゴーストライダー2」でもタッグを組んでいますが、思えばあれもニコケイの顔芸がメインでしたね(苦笑)


ある日突然、世の親たちが狂いだし、我が子を殺害する事件が多発します。
ブレントとケンダル夫妻もカリーとジョシュアという子宝に恵まれていましたが、家庭の内情は厳しいものでした。
家庭を持ったことに幸福感と後悔の念が同居するブレントたち。
やがて、彼らも変貌してしまいます。
ノコギリやハンマーを手にしたブレントとケンダルは、我が子を全力で殺しにかかるのでした。


激しい夜泣き。
勝手な我儘。
部屋の散らかし。
駄々をこねる。
財布からくすねる。
何かを汚す、壊す。
勉強をしない。
口が悪い。
反抗する。

自分もそうだっただろうに、親になってみると我が子の行為に辟易とし、嫌になる瞬間は誰にでも経験があると思います。
「このクソガキが」と、平手の一発でもお見舞いしたくもなるし、最悪、いなくなってくれたら清々するのにとまで追い詰められる事もあるでしょう。
そういった時に踏み止まらせてくれるもの、それが理性であり、我が子への愛情じゃないですか。
しかし、もし子供への怒りや憎しみ、はたまた若さへの嫉妬心などが愛情さえも超えてしまったらどうなるのか?
無償の愛だと信じていたことが幻想でしかなかったら?
本作が描いているのは、原因は不明ながら、まさしくそういった「ifの世界」なのです。

かつて永井豪は、同様のアイデアである短編漫画「ススムちゃん大ショック」において、大人が子どもを殺し始める理由を「愛情の糸が切れたから」と表現しました。
子供は可愛いはず。
だから無償で愛せるはず。
でも、それが脆弱な、一本の細い糸だけで支えられているだとしたら、簡単に切れてしまうかもしれません。

何かで読んだのですが、動物の赤ちゃんが外見からして可愛いのは、その可愛かった記憶を頼りに親が子供を愛し続けることが出来るようにという説があるらしいです。
たしかに、子供に対して怒りを感じた時、「でも、こんなヤツでも赤ん坊のころは可愛かったんだよな」と思うことは多々あるわけで、非常に納得できたのをおぼえています。


本作はゾンビ映画にも似た「日常の破壊」をテンポよく描いていて、学校に押し寄せる親たちの群れがまず怖い。
人気のなくなった住宅地。
ひっきりなしにこだまするパトカーのサイレン。
異変を伝えるニュース映像。
そして何故か砂嵐が映るディスプレイ類・・・
何かが日常を侵食し変貌させてゆくのに、誰一人とて対処ができない恐怖は絶対的ですからね。

ケンダルが殺意の塊に変化する瞬間を、セルマ・ブレアが目の表情だけで圧巻の演技。
ニコケイは狂いだしてからは終始、素晴らしい顔芸と奇声のパフォーマンスをこれでもかと見せつけてくれます。
頬にシリアルをべちょりとくっつけながら万能ノコギリをブラブラさせるニコケイに感動しました!
「万能ノコギリは何でも切れる!」


終盤に訪れるサプライズな展開も面白いし(先に予告編を観ちゃダメ!)、オチのニコケイのセリフも何だか身につまされて最高に嫌なクロージングとなりました。
ホラー映画は嫌な気分で終わらせてくれるのが重要なので、余韻が残る苦い締めにセンスを感じましたよ。
「ゴーストライダー2」は好きではありませんが、同監督の「アドレナリン」や「GAMER」は好みでしたので、独特な作風ですがマグナム的には割と波長の合う監督さんなのかもしれません。


事件の原因が不明のままなのは良いのですが、少し疑問に思った箇所もありました。
それまでの怒りや憎しみが愛情を逆転して狂気にはしるシステムなら、生まれたばかりの赤ん坊にまで殺意を抱くのはどうしてなのか?
まだ怒りや憎しみをもつほど接していないのに何故なのでしょう?
劇中、「産むときの痛みは愛情が和らいでくれる」というような台詞がありましたが、なるほど、お産時の痛みを我が子のせいにしているという解釈なのかな?
でも、それならば保育器の並んだ部屋の前で、父親たちが衝動に駆られていたのはどうしてなのでしょうね?
やはり、我が子なら問答無用で殺しなくなるのかな。
まったく子供に対して負の感情をもった経験がなかったとしても、殺意だけが抑えられなくなるとしたら、それはもはや人間というよりも、それこそ本能のみで動くゾンビのようで尚のこと恐ろしい。
親なんてゾンビでしかないのか(汗)


本作はホラー映画ではありますが、テーマがテーマだけに(?)余計な残酷描写は極力抑えてありまして、グロテスクな表現は殆どありません。
親が子供を殺す場面も直接的描写は避け、ちゃんと見せてくれるのはビニール袋を被せるだの、首を絞めるぐらいです。
なので、耐性のない方にも勧められやすい反面、ビジュアル的にはいつもゴア満開な作品を観ているので正直いって物足りませんでした。
しかし、あえて血みどろなショックシーンに頼らずに、半ばコメディ映画のようなニコケイのキレた演技を前面に押しだしている辺りに人間の真の恐ろしさが垣間見えるようで、エンドロールを呆然と眺める自分がいました。
個人的にかなりキツかったです。
「マッドダディ」は、子供に時間やお金を奪われていると、そんな考えがチラリとでも頭によぎったことがあるならば背筋が凍るような、家族の在り方を問う優れたホラーでした。
若い頃は世界の中心は自分だったのに、子供が出来れば世界の中心の座を奪われる。
それを当然だと受け入れられるのかどうか?
あなたは、本当に納得して受け入れているのですか?
我が子をずっと守ってゆける?
それとも・・・・・?

良きパパ、良きママにこそ、特にオススメしたい怪作にして問題作。


セル・ブルーレイにて