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カッターヘッド 真夜中の切断魔のhorahukiのレビュー・感想・評価

3.4
覆面殺人鬼カッターヘッド先生がしょーもないことに逆ギレして、別荘に遊びに来た家族を殺していくホームインベージョンスリラー。

MDGP2018公開作です。
世間的な評価がめちゃくちゃ低いけど、結構面白かったです。

ママと幼い娘2人が休暇を利用して遊びにきた森の奥地にある別荘。仕事の後でやって来るパパを待ってたけど、娘たちが森の中から「何か」を持ち帰ってしまう。それをきっかけに、その場にいるはずのない何者かの気配を感じ始めるママ。やがてそれは親娘たちに牙を剥き始め…。

良くわかんないことでイライラしてるカッターヘッド先生は正直何がしたかったのかは良くわかんないんだけど、絵本を序盤から何度も登場させることで、本作が「子ども」に焦点を置いた物語だということを観客に印象づけるのは丁寧だと思いました。カッターヘッド先生はただ単なる構ってちゃんやったんでしょうね(笑)

ママと幼い娘2人が他に誰もいない広大な自然の中で過ごすという拠り所のない脆弱性を印象付けるような映像表現が序盤で多くなされてました。自分たち以外に誰も住む者がいないからこそ油断が生まれ、癒しや開放感をもたらすような綺麗な風景がその油断を助長してしまうわけですが、そういった開放感や油断により、森に囲まれ大きな湖の前に立つ別荘という舞台が此方側から森に向けられる視界を完全に阻み、彼方側からの一方向の視線に晒され続けてしまうという考えを頭から消し去ってしまう。

そんな別荘という舞台は、明確な悪意の前ではただただ無防備でしかないことを意識したカッターヘッド先生のやり口がとても良かったと思います。

森の中に仕掛けを巡らせることで外側から少しずつ家族へと迫り来る「異変」は、森という自然の障壁が全て覆い尽くし秘匿する。それが危機として顕在化する頃には、すでに家族の最も深いところにまで侵食してしまっており、打ち込まれた楔は内側から家族を蝕み始める。子どもに焦点を当てた作品だからこそな、誘導し侵入させることにより逆に侵入するというアイデアが面白いと思いました。

赤い糸を辿り森の深部へと進んでいく道のりや持ち帰ってしまうものからは、『パンの大神』のような目の届かない彼方側での隠微な交わりを連想させ、吐き気をもよおすその症状は表面上は描かれる通りの意味でしかないにしても、よりアブノーマルな事柄を連想させるし、親の目の届かないところで子どもが別の者へと変容する「何か」を植え付けられてしまうという漠然とした親としての不安が見え隠れする。

そして、子どもを通して内側から家族を崩壊させようとする危機に打ち勝ち家族を守るのはやはり子どもではなく親の役割だということを強く意識した物語だったのだなと感じました。

スラッシャーというよりホームインベージョンスリラーなので、ジャケの割にはあんまり残虐なシーンのないおとなしい作品ですが、ちゃんと作られてて楽しめました♫
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