ぬ

グッド・タイムのぬのレビュー・感想・評価

グッド・タイム(2017年製作の映画)
4.4
ものすごい好きな映画だった。

弟思いだがやることなすことすべて空回りの兄と、知的障害を持った弟。
塞ぎ込みがちな弟に自信をつけさせて一人前にしようと、いっちょ兄弟で銀行強盗でもしようと企てる兄。(この時点で兄の的外れ感がすごい)
逃げ切れずに捕まってしまった最愛の弟を助け出そうと奮闘する兄。
みたいなストーリー。
ひたすらに「うまく行かない一夜」が描き出されていている。

まず役者がいい。音楽と映像もいい。
主演のロバート・パティンソンがどえらいハマり役だった。
トワイライトのイメージしかなかったけど、すごくいい役者さんだ。
もっとこういう煮えきらない映画に出てほしい!!(個人的趣味)
そして弟を演じたの、監督なのかよ…すごい良かった。

兄は機転を効かせてるつもりで、うまく弟を取り返そうとあれやこれや行動するんだけど、ほんとーにアホで、行動がいちいち斜め上過ぎて「えーそんなことすんの?あーそんなことしたら…ほら!!言わんこっちゃない!!」みたいな行動ばかりする。
もはやそれが行動が読めなくてハラハラして面白い。

それでも兄を憎めないのは、陳腐な表現だけど彼が本当に自分なりに考えて、弟への愛に突き動かされて行動しているのが伝わってくるからだろう。
最下層な生活を送る彼は、おそらく十分な教育も受けられず生きてきただろうし、そもそも「弟を幸せにするために、強盗をして自信をつけさせよう」という破滅的な発想からして、彼自身もそうやって犯罪や危ないことに手を染めるやり方でしか「幸せみたいなもの」に近づく方法を知らずに生きてきたのだろう。

監督がインタビューでも言ってたけど、兄はただ、理想の兄弟に憧れて、弟と二人でgood timeを過ごしたかっただけなんだ。
彼の知っているやり方、彼の思い描くgood time、そういった彼の今までの人生経験が元となった考え方から、失敗だらけのうまく行かない一夜が生まれる。
だから彼の行動のひとつひとつから、これまでの彼の人生がどんなものだったかが透けて見えてくる気がする。
理想の兄弟になろうと、幸せになろうと足掻くけど、間違ったやり方を重ねることしかできない兄がとても痛々しく、やるせない。

イギー・ポップが作詞をしたThe Pure and the Damnedが流れるラストでは、この兄弟にとって、兄が心から幸せを願う弟にとって、一体何がgood timeなんだろう??幸せってなんなんだよ??とめちゃめちゃ悩ましい気持ちになった。

この映画の音楽は全体的にいいんだけど、特にやっぱりラストの曲が映画とすごい調和していてとてもいい。
「純粋な者はいつも愛ゆえに行動を起こす。罪深き者もいつも愛ゆえに行動を起こす。」
「純粋な人生を送ることについて想像する。曇りなき澄んだ空を見据える。私はそこへは辿り着かないだろう。でも、それもいい夢だ。それも、いい夢だ。」
賛美歌みたいに神聖なイギー・ポップの歌声でエンドロールを迎えて、とんでもなくモヤモヤとしたものが残る。
そしてこのモヤモヤこそがこの映画の素晴らしさだと思う。

いい映画を観た。
ぬ