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少女ファニーと運命の旅のくりふのレビュー・感想・評価

少女ファニーと運命の旅(2016年製作の映画)
3.0
【命綱は小さな足】

ジュブナイル映画ではないが、現代の子供に見せることがまずは制作動機のようですね。その点からはよかった。

後で原作者ファニーの自伝も読みましたが、日本版はジュニア向けに翻訳されており、そちらにも、子供たちに伝えたいとの意志を感じますね。そして原作と映画の差異から色々と…ナルホドでした。

現代のための視点・感覚から史実を捉え直し、子供の目線になるべく沿って構築したのかな、と感じました。これには良し悪しあるのでしょうが、本作では悪くなかったと思います。

この作風から心に残ったのは、当時はより日常的であったろう、子供に銃口を向ける行為の愚劣さ、が異様に際立つこと。そしてその先で待つ、いくら子供だろうが、助かるために最後は、自分の足で走るしかないという生々しさ。

演じる現代っ子のリアクションや、たどたどしく走る姿から、よりその恐ろしさが増してきます。

年少メンバーが逃亡しながら、何の事情もわかっていない…という脆さが物語としての緊張感を高めますが、これも現代の子供の姿と重ねてしまい、複雑な気持ちになりました。

一方で子供は子供、という姿も素直に捉えており、気持ちよい風も映画に吹き込みますね。命がけの逃亡中でも、ちょっとしたきっかけで燥ぎ出し、そのまま戯れる生命力。

主人公ファニーは、ちょっと不器用な“頑固キャラ”にチューニングされていました。原作を素直に取ると、実際はいつも自然とリーダー格になってしまう達者な子供だったようです。
映画ではそこに弱みを強めた調整も現代味かと。全体がふらつくような効果が出ています。

ファニー役の子は微妙な演技でしたが、彼女との距離を縮めてゆく少年が巧くて、よいコントラストでした。

本作が出てきたのは、歴史からの後押しもあるようですね。フランスでは、当時のヴィシー政府への実態解明と断罪、が20世紀中に落ち着き、21世紀になってからユダヤ人を助けたフランス人に光が当てられるようになったそうです。

確かに、原作自伝も1986年にイスラエルで出版されていますが、フランス語版は2011年に出ています。そこから火が着き、映画化となったようですね。

子どもたちの姿ばかりに眼を奪われてしまいますが、彼らを助けた“平均的フランス人”が居たからこそ、逃亡の旅を続けられたわけで、その点、地味ながらもしっかり見せたのが本作の価値でありましょう。

が、こうした映画を作り浸透させる意義は感じるものの、現代で近似の境遇である子供たち、への実効性からだと、実際に困っているのは、映画など見る余裕のない子供たち、なわけですけれどね…。

<2017.9.6記>
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