Ricola

ロスト・イン・パリのRicolaのレビュー・感想・評価

ロスト・イン・パリ(2016年製作の映画)
3.6
実際の道化師の夫婦が監督・脚本・主演をつとめたという、異色作。

カナダからパリへ何十年も前に渡ったおばに会いに、旅に出たヒロイン、フィオナ。
彼女の「不器用さ」は、フランスのあの偉大なコメディ映画のキャラクターに通じるものがある。
そう、ジャック・タチのユロ氏である!


カナダに住むフィオナの家で、外から入ってくるときに扉を開けると、中の皆が吹雪に吹かれてそのまま身を任せて、時間が停止したようになるの、かなり好き。
ここでは彼女の生きている「リズム」は浮いていないが、パリという別世界へ行くと一転する。

彼女がパリにやって来て慣れない都会で大荷物を抱えて移動している様子など、ジャック・タチの作中のキャラクター、ユロ氏のようである。

アンドレ・バザンがユロ氏を「タイミングの悪さの天才」(「映画とは何か 上」の「ユロ氏と時間」より)と語ったように、この作品のヒロイン、フィオナもそうなのである。

大きな荷物がメトロの改札でつっかかったり、しまいには写真を撮ってもらっていたら、不思議なことに川に落っこちてしまうのだ。

それは、ユロ氏が「世界」に図らずとも混乱を引き起こしてしまい、彼が去ったあともその混乱状態が続いている、お決まりのパターンと一緒であった。

しかし、こういったジャック・タチへの敬意から(おそらく)くるエスプリを散りばめただけではない。

他に創意工夫といった、かわいらしい演出が盛りだくさんなのだ。

ベンチに座る二人の足がダンスする。
彼らの距離が縮まることを、軽やかなステップだけで表現する。
それはアメリカのミュージカル映画全盛期をほんの少し、彷彿とさせる。

また、画面を2分割にし、一つの画面にまた組み合わせた演出も印象的だった。
男女の息の合っている様子をまるで証明するかのようだった。

そして本業の道化師の本領発揮という感じでの大技にはハラハラさせられた笑

中盤のストーリーの冗長さは否めないが、こういった細部まで工夫された楽しい演出が面白かった。
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