茶一郎

バーフバリ 王の凱旋の茶一郎のレビュー・感想・評価

バーフバリ 王の凱旋(2017年製作の映画)
4.4
 バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!恥ずかしながら私、こんなにも観客に向かって全速前進最大のパワーで正面突破してくる映画を体験した事はなかったです。
 観た全員が「バーフバリ!」と叫びたくなるインド映画史上、最大の製作費、最大の興行収入、何もかも破格の『バーフバリ』シリーズの完結編が今作『バーフバリ 王の凱旋』になります。前作で明かされた衝撃の真相=「初代バーフバリ(アマレンドラ)を殺したのは『お前』だったのか!」から始まり、何故、そのような衝撃の展開になったのか、から真相と経緯を知った二代目バーフバリ(シヴドゥ)の物語までを描きます。

  前作『バーフバリ 伝説誕生』は、我々が何千回と観た『スター・ウォーズ』でお馴染みの神話構造「貴種流離譚」・二代目バーフバリの冒険譚をインド映画独特のハイテンションな演出スパイスでマシマシに語った作品でしたが、今作『バーフバリ 王の凱旋』は前編を遥かに超えるテンションと荒唐無稽さ、奇想天外っぷりな物語になっており、度肝を抜かれます。今作『バーフバリ』にしてみたら、「重力」や「腕力」、あらゆる物理法則は機能しないも同然で、とにかく「スゴい画を観客に見せる!」と言う作り手の強い意志が全編をサイコーなものにします。
 特にVFXが発展し、観客が映像で驚く事ができなくなってしまった昨今、逆にCGであることを強調した超超超非現実的な画を提示することで観客を驚かせようという今作の姿勢は、VFXやCGによる映像表現と言えどある程度のリアリティラインを守らなければならないハリウッドの映画作品とはかなり異なるもの。そして、どちらが「スゴい」かと問えば、当然、「『バーフバリ』の方がスゴい」となる訳ですから、映画における「スペクタクル」とは何、を改めて今作をきっかけに考えねばならないと思います。

 そんな飛び抜けた映像は実際に映画を見てもらうとして、個人的には鑑賞中のノイズになる部分も少なくは無かったです。何よりも前編、後編合わせてほとんどが初代バーフバリの伝説回顧録になってしまっているのがどうしても気になります。上映時間のほとんどを伝説回想に使ったことによって、結局、二代目バーフバリの成長物語として弱くなってしまっている。『スター・ウォーズ』におけるルーク・スカイウォーカーの物語よりも、結末(前編の衝撃のラスト)が予め教えられているアナキン・スカイウォーカーの物語の方が長いのは残念です。これは上映時間の制約もありますし、無いものねだりですが、何なら「後、10時間ぐらい上映時間があっても全然、見るよ」と思いました。
 加えて、監督のS・S・ラージャマウリ氏の、ハエが主人公の『マッキー』も冒頭に物語の語り手のセリフから始まることを思い出すと、S・S・ラージャマウリ監督は「物語・神話を語ること」と映画作りが同義になっているほど、物語を語ることに強い意識を置いている作家であるようにも思います。従って、『バーフバリ』のほとんどが初代バーフバリ神話になってしまうのも仕方ない気もしました。

 『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』が聖典を焼き捨て、神話から脱却するハリウッドの一方、トリウッドから改めて神話を語り、今までに無い物を見せる作品が登場した2017年。バーフバリ神話の底無しのパワーを体験しましょう。
茶一郎

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