クレミ

お母さんのクレミのレビュー・感想・評価

お母さん(2016年製作の映画)
3.2
EUフィルムデーズにて、プロデューサーと主演女優の方のトークショー付き。感想や質問まで受けてもらえて、直接お話しできました。しかもキャンパスメンバーズで無料!素晴らしい。

さて、本編の方はというと、なかなか良かったです。
ある程度サスペンス耐性がある人は予測できる結末なんですが、登場人物ひとりひとりの描きこみがわりとえぐみの効いたものになっていたのが良かったなあと。

自分なりの読み込みとトークショーの内容を合わせて言ってみると、お母さんは愛の無い人生を歩んできて、校長との不倫により初めて愛を知った人。愛してもいない息子の介護をこの先ずっとしていかなければいけない、愛の無い夫との庭作業と庭に根付く植物達は「拘束」や「牢獄」の象徴ですね。
それに対して息子はというと、どうやら彼女以外にも女を抱え込んで、教え子に手を出していたり。いろんな人が次々と見舞いに訪れ、古くからの友人にも金を貸していたりと、交友関係の広さや人懐っこさが伺え、母親とは違い愛を享受してきた人間だということが分かる。
プロデューサー曰く、裏設定では村一番のハンサムだそうで、安月給の教師の割に海外旅行に行ったりアパートを買ったり羽振りがいいところから、闇取引なんかにも手をつけていたらしい。

この愛の無いお母さんと、愛を享受してきた息子の対比、そこから広がる田舎町の狭いコミュニティだからこそ起こるすれ違いとフラストレーションがこの作品における大きなテーマだなと思いました。

息子とお母さん以外の人物に関しても、一見良い人に見えても、見ていくうちにだんだんとその人の「闇」が見えてくる。そこを意識したそうです。

登場人物たちが次々とやってきて行う息子への「告白」が懺悔室のようだったとの質問への答えによると、
エストニアでは宗教を信仰する文化はあまり無い。しかし自分の気持ちや肝心なことを他人になかなか言わないという性質があり、それを描いているためそういう風に見えるのだそうです。

また、結末は、見終わったあとのこの感覚を狙って描いているそうなので、やはり田舎町で起こる人々の摩擦やフラストレーションにフォーカスしている作品なのだと思います。

おそらくなかなか見る機会が無い作品なので見ておいてよかった。
クレミ

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