ケンヤム

逆徒のケンヤムのレビュー・感想・評価

逆徒(2017年製作の映画)
4.8
小林勇貴という監督は、下の人間が上の人間に義理や仁義を押し付けられ利用されるという深作欣二の仁義なき戦い的な搾取の構図を、自分や身内の人生経験から拾って来て、それを映画というフィクションに落とし込んでいるところがすごいと思う。

逆徒という映画のストーリー自体は、リンチにより死んだはずの男が生き返って復讐するという荒唐無稽な話だけれど、この設定の根底にある「俺たちを搾取する先輩どもをぶっ殺したい!」という下っ端たちの想いほど現実的で切実なものはない。
リアリティってそういうことなんだろうと思う。
どんなに話が荒唐無稽でも、それを作った人間の想いや、作った人間が拾ってきた想いが感じられれば、私たちはその映画に強く心を動かされるだろう。
小林勇貴の本をこの前読んだが、監督自身徹底した取材主義に基づいて映画を作り続けている。
不良たちの想いを拾い続けて映画を作っているのだ。そして、そこに自身の世の中への不満や鬱屈した想いをぶつける。
そこに初めてリアリティが生まれるのだと思う。

小林勇貴の映画の一番好きなところは、フィクションが現実を侵食する瞬間をしっかり映画に盛り込むところだ。
普通の映画監督はこれが映画であるということを隠そうとするけれど、小林勇貴は自身の映画の中で、作り物感を恥じもてらいもなく出すし(うんこがあきらかに味噌なところとか)噛んでるシーンもちゃんと使うし、これは映画だ!というところをしっかり見せる。
映画を撮るという行為自体を肯定することで、映画を観ている自分自身も全面的に肯定されるような感覚。
「楽しいよな!観ているお前たちも含めて最高だよな!」
というような感じで、いとも簡単に画面の中と現実の垣根を乗り越えてくる。

スタイリッシュで不恰好で、真面目でバカな小林勇貴の映画をもっと観たい。
ケンヤム

ケンヤム