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ゴールデン・リバーのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ゴールデン・リバー(2018年製作の映画)
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ウェスタン・ロードムービー。殺し屋シスターズ兄弟の呑気にユーモラスな掛け合いはたぶん、原作小説そのままなんだろう。そしてジャック・オディアール監督は、殺伐した暴力と人間の温かみを絶妙なバランスで配合。荒くれ呑んだくれな弟ホアキン・フェニックス&強くて苦労性な兄ジョン・C・ライリー、化学者で山師なリズ・アーメッド&物書きで連絡係ジェイク・ギレンホール、2組4人のブロマンス映画でもある。
やはり面白くなるのは、2組の旅が合流する後半だ。方や兄弟喧嘩で解散寸前、方や相棒として意気投合したアウトサイダー。化学と理想社会VS終わりなき殺しの因果応報。銃から発射された火花が共に囲む焚き火に変わるかのように、その交流が闇の中で束の間心を温める。常に追い立てられる彼らが目指すのは金でも報酬でも名誉でもない、ただ心安らげる居場所だ。それは兄弟にとって帰るべき場所でもあった。
私の中でホアキンとジェイクは同じ系統なので、2人が一対となった場面になるほど納得。穏やかに底知れぬ闇を覗かせるリズ・アーメッドもすごく良いが、何たってジョン・C・ライリーが素晴らしい。ホアキンと並んだ凸凹具合、歯磨きだけでもペーソスと滋味溢れた佇まい。父権の抑圧から逃れた兄と連絡係は、血の味を忘れようと歯を磨く。
その歯ブラシ歯磨き粉や怪しい薬品といった新しい文明との遭遇が背景にあって、馬や提督の死が一時代の終わりを暗示。弟の代わりに「手を下すべきだった」兄がその幕引きにトドメを刺す。
なので彼らが失ったものは大きいけど、映画は「なるべくしてなった」旅の結末に安堵をもたらす。男だって殺し屋だって暴力が支配する世界に疲れるし、旅も疲れる。ブラザーズはシスターズ。人の中には例え相反する要素でも当たり前に混じり合っていて、その中にひょっとしたらハート・オブ・ゴールドが見つかるかもしれない。4人はそんなロマンを掘り出そうと、どこまでも遠くへゴー・ウェストしたのではないか。
火花や炎、蝋燭の灯から、きらびやかなランプが照らす大都会サンフランシスコ、川の中で発光する黄金。闇に潜む暴力とささやかな光の距離を捉えた撮影、デスプラの音楽がとても良かった。青空と夕焼けの混じり合うグラデーションはそのまま彼らの心象風景に見える。
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