ymd

ゴールデン・リバーのymdのレビュー・感想・評価

ゴールデン・リバー(2018年製作の映画)
4.2
名優4名が交錯する極上の西部劇。
ゴールドラッシュに沸く1850年代のアメリカを舞台した今作を監督したのはフランス出身のジャック・オーディアール。
だからかどうかは分からないけれど、ステレオタイプなウエスタンムービーとは一線を画した、人間ドラマに主眼を置いた文学的な香りが漂う静謐な作品である。

一般的なウエスタンムービーに見られがちなマチズモが皆無なのも昨今の時代を捉えているのか印象的だ。

メインビジュアルでは4名が主人公のように見えるがそれはミスリードで、原題の通り、あくまで主人公はジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックス演じるシスターズ兄弟の2人だ。

冷徹な殺し屋である2人の揺れ動く感情の機微を描くことがこの映画の本筋であり、リズ・アーメッドとジェイク・ギレンホールは兄弟にとっての天啓的存在であり、あるいは拳銃の引き金のように2人を搔き乱していくことになる。

クライムサスペンス風味だけど実質的にサスペンス要素は希薄で、4名それぞれの野望が合流したり離反したりを繰り返しながら、その奇妙な男たちの関係性は一種ブロマンスのようにも見えてくる。

非常に重厚で貫録のある風体だが、鑑賞中はどこに向かうのか展開が読めず、揺らめくような不思議なタッチが流れている。

名バイプレーヤーであるジョン・C・ライリーは燻し銀の渋い演技の中に何とも奇妙な愛嬌を覗かせるのが悶絶級のキュートさである。
娼館で娼婦に歪んだ欲望をぶちまけるシーンは今作出色の気持ち悪さを湛えるとともに、彼の中の純粋さ・脆弱さ・空虚さを表出させた名(迷)シーンだ。

一方の粗暴で狂気的な弟を演じるホアキン・フェニックスもあの異様な光を放つ双眼が凄まじく、対照的な兄弟が互いにすれ違いながらもたどり着くクライマックスは素晴らしいの一言に尽きる。

この結末はこの映画の出発点からするとまるで想像がつかないはずなので、ぜひ予備知識なしで鑑賞してもらいたい。
ymd

ymd