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英国総督 最後の家のdm10foreverのレビュー・感想・評価

英国総督 最後の家(2017年製作の映画)
4.1
【勝者】

ダメだね。やっぱり勉強はちゃんとしておかなきゃ。
今まさに学生という皆さん、確かに「サイン、コサイン、タンジェント」とか「元素記号」とか「漢文のレ点」とかとか、社会に出て使う可能性は極端に低いかもしれない。
勿論、関係あるお仕事に就く方もいるかもしれませんが、圧倒的に使わないことの方が多いかもしれない。でも、ふとした拍子に「あ、これ!何か聞いたことある。中学だったかな・・・高校だったかな・・・でも確かに習ったよな・・・。」って事が非常にもどかしく感じる時があるんですよね。
じゃあ、もう一回勉強するかって言うと・・・やらない。
「時間が・・」とか「気力が・・・」とか「今更・・・」とか、なんだかんだ理由をつけてやらない。
だから、今勉強することが仕事の人たちは沢山学んでおくべきだと思う。覚えておいて損はないし、要らないと頭が認識すれば自然と脳がデリートしてくれるから(笑)

なんでいきなりこんな話をしたかというと、今作で扱っていた「インドの独立」と「パキスタン建国」の成り立ちについて、こんなにも無知だったのか・・・と改めて思い知らされたからなんです。
なんとなくね、薄っすらとは知ってたけど・・・その程度なんですね。
ただ、多分この映画で描かれていることが真実だとしたら、ひょっとしたら学校の授業では教わっていないかもしれない、そんな衝撃も受けましたが・・・。

舞台は1947年インド。
長らくイギリスに支配されてきたインドが300年ぶりに主権を取り戻すこととなった。そして、最後のイギリス総督としてインドに派遣されたルイス・マウントバッテンの目を通して、当時のインドが一体どのような状況だったのかが描かれている。
当時のインドは「ヒンドゥー」と「ムスリム」の宗教対立が激化し各地で暴動や大虐殺が発生していた。
インドにマウントバッテン(通称ディッキー)が送り込まれたのは「スムースに主権譲渡を行うため」だったが、このような混乱した状況の中で、果たして主権譲渡が上手くいくのだろうか・・・と思い悩むこととなる。

そんな中、総督邸に使える使用人として新たに一人の男が仕官する。
彼の名はジート。パンジャーブ州出身のヒンドゥー教徒だった。
そして彼は総督邸で一人の女性を見つける。彼女は以前ジートが勤務していた刑務所に収監されていた男性の娘アーリアだった。ジートはずっと彼女を愛していたが彼女はそれを受け入れられない。何故なら彼女も彼女の家族も「ムスリム」だったから。
自身の心よりも信仰を重んじる地において、それは禁断の恋に他ならなかったんですね。

この物語はインドの独立を巡って激化する宗教対立のありのままを「政治的側面」と「宗教的側面」から見た二面性を持った作品でした。

以前・・・といっても10年以上前に観た「ボンベイ」というマニーシャ・コイララ姉さん主演のインド映画でも描かれていましたが、インドにおける「宗教」や「カースト制度」の現状は、恐らく日本人が教科書で習ったようなレベルのものではなく、本当に「人を人とも扱わない」くらいに徹底した区別社会によって成立しているんですね。差別とかそんな感情的なものではなく、生まれる前から淡々と決められた運命によって住む場所も生き方すらも既に決められている。それは個人の努力でどうにかなるようなレベルのものではないんですね。ハッキリと線が引かれているんです。そう、「区別」として。

そしてこの作品における宗教的な対立もまた我々日本人には到底理解できないくらい根深い問題でもありました。


やがて、国内での対立、暴動は激しさを増し、それは総督邸に使える500人の使用人の間でも露わになってくる。
ディッキーはもはやヒンドゥーとムスリムの分割統治しか道はないと考えるようになり、本国にその許可を求める。
ディッキーの奥さんは焦る夫を諫めるが、そんな猶予はないと決断してしまう。
やがてその提案は本国でも承認され「マウントバッテン裁定」と評価される。

しかし、インドではその後も混乱が収まる気配はなく、ディッキーは各派の指導者を集め「分離統治」の提案をする。

そこで真っ先に分離統治に反対したのが、有名な「ガンジー」であった。
『ヒンドゥーもムスリムも、どちらの宗教(神)も本物です。宗教によって国を分ければ、それは対立を生むだけです』

しかし、ムスリムの指導者であるジンナーはもはや一つのインドは不可能だと考えていた。
『インドが国に見えているのは地図の上だけだ』

「インドとしての単一国家としての独立」か「インドとパキスタンへの分割」か。
悩むディッキー・・・。

やがてパンジャーブでも大虐殺が発生する。

ディッキーは「国家分割」を決断した。
そしてパンジャーブ州とベンガル州も「インド」と「パキスタン」にそれぞれ分割することとした。
イギリス本国からラドクリフという専門家が呼ばれ、数日のうちに国境線を作成するように指示されるが、彼はインドに何の知識もなく「無理だ・・・」と言い切る。

「その土地を知らない人間が国境を作るなんて、まるで血まみれの斧を振り下ろすようなものだ」

そんな時、ディッキーの側近からあるモノがラドクリフに渡される。
それは既にイギリス本国で作成されていた「国境案」だった。

ここからは本当に知らなかった事実です。

イギリスはもともとインドとパキスタンを分割統治するつもりだったのです。それはパキスタンの位置に関係していました。つまり「石油」の為にインドを割ったのです。
しかし表立ってそれが出来なかったためにディッキーの名前が挙がったのです。
そう、彼が提案した「マウントバッテン裁定」が全てだとして・・・。
今までインドで沢山の血が流れたのは一体何のためだったのか・・・。
イギリスの利益を守るためだったのか・・・。

しかし、国民たちはそんなこととは露知らず、自分たちの自主独立が叶ったと歓声を上げました。
パキスタンの建国式の日

「ディッキーよりもチャーチル(当時の英国首相)が来るべきだった。彼こそがこの国の助産師だったよ」

皮肉を込めたこの言葉こそが全ての真実を物語っていた。

結局この分離統治でインドは幸せを手に入れたのだろうか?
この後も混乱は続き1400万人が難民となり、100万人以上が死んだとも言われている。
そしてこの物語に命を吹き込んだ監督こそ、この難民の孫なのである。

『歴史とは勝者によって記される』

映画の冒頭に流れたテロップ。
僕たちが習った歴史は残念ながら「ある側面」からしか見ていないものだったのかもしれない。もし「勝者」が記した歴史だとしたら、今回の勝者は誰なんだろう?
イギリス?
だとしたらあの時血を流したインドの人たちが浮かばれない。
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