開明獣

女は二度決断するの開明獣のレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
5.0
「帝国の市民」というドイツに存在する団体をご存知か?彼らは、ナチスドイツ時代の第三帝国の正当性を主張し、現状のドイツ国家を否定して税金納入を拒否し、独自のパスポートを発行する過激な極右集団である。反ユダヤ、反移民、反グローバルの純潔主義で、銃火器で武装し、暴力行為を厭わない恐ろしいグループで、本作の加害者側も、そういった思想をもった一味の一部である。

つい先月も、銃などを用意していた25名が捕まり、うち1人は、現役の軍の特殊部隊に所属していたことが判明して大きな衝撃をドイツ国内のみならず、全世界に与えたばかりだ。一次、二次と世界大戦の大きな要因となったドイツへは世界各国の警戒はいまだ根強いものがある。

驚くべきことに、「帝国の市民」は、この5年間で支持者が8割も増えたとされている。これだけナチスドイツのホロコーストへの蛮行を描いた映画や小説がドイツ国内から世に出され、いまだに自省をやまぬ国である一方で、光と闇のごとく、こういった狂気の集団が勢力を増しているのが現実だ。

本作の主人公は、移民である夫とその息子を過激派組織のテロにより殺されてしまう。彼女自身も、麻薬への依存症や、タトゥーがあるなど、必ずしも規範的な市民としては描かれていない。でなければ、本作は成り立たない設定になっている。法も当てにならず、暴力が支配する世界で彼女は何を決断するのか。そして、それは主人公のキャラクター設定と密接に結びついている。

「帝国の市民」が取っている道は自滅しかない。閉ざされた方向にしか動かないのなら人類に進歩はなく滅びるまでだ。だが、その道を選ぶものが後を絶たない。リプレイスメントセオリー、黒人がいつか白人にとって代わるという根拠のない陰謀論を垂れ流し、人々を煽り、自分の支持者を増やしているドナルド・トランプ。そのトランプを支持しているものが半数近くいる米国が極右的な方向に走るなら、ドイツとなんら変わりない状況に成り果てていく。この日本とて、排他的な文化は根強く、右寄りの一部の国会議員の中には、過激な意見を持つものもいる。それが現実だ。

一方で、あまり倫理的ではない一般市民が、何らかのきっかけで反撃に出たとしたらどうなるか?同士討ちは、ある種の内乱と同じで、自らの首を絞めていく帰結に辿り着くだけだ。

1人の女性の悲劇から、世界の終末の可能性が見えてくる作品。
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