潮騒ちゃん

女は二度決断するの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
4.2
やさしく包んだ夫の頬。いってらっしゃいと振られた息子の手のひら。数時間前、確かにさわれた最愛は一瞬でバラバラにされてしまった。何もかも奪われた女カティヤを見つめる。息も絶え絶えな彼女を周囲や世間はただの被害者にして置いてくれない。テロ行為の惨さやどこまでも無慈悲な裁判劇は、僅かに残った心さえもガリガリと削っていく。消えた命と生まれゆく命。あたりまえの周期を取り戻す身体。巡るもの全てに絶望する。憔悴したカティヤは乾いた枯れ枝のようで火をつければ簡単に燃え朽ちてしまいそうだった。一部、二部、三部、と構成された時間が流れるたび虚無が満ちていくのがわかる。どうでもいい。どうなってもいい。返してほしい。偏見と正義のために奪われた愛しい残骸は今どこにあるのだろう。三部が終わりに近づく頃、ようやく彼女は決断する。たったひとりで。凪ぐような目で。何を浮かべていたんだろうと、今も思う。
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