磔刑

ヴェノムの磔刑のレビュー・感想・評価

ヴェノム(2018年製作の映画)
1.5
「腹減った、腹減ったと連呼してた割に、いざ食べ出すと全然食べないヤツっているよね。そういう映画」

鑑賞中終始思ったのは岩明均の『寄生獣』完成度高過ぎん?むしろ何で日本漫画の劣化映画をわざわざ1300円と移動込みで3時間以上時間を浪費して観んとアカンねんっていう憤りを通り越した屈辱を感じた。

『寄生獣』と並べると設定やキャラクター、ストーリーの至る所に類似点がある。この際どちらが先かなんて不毛な議題はさて置いとくとして。重要なのは似てはいるのだが、似ている部分の多くが尽く劣化なのが本当に痛々しい。

人間と寄生生物の関係性を考えると本作は『寄生獣』同様にバディ・ムービーに位置付けられるのだが、質がとにかく低い。
寄生生物であるヴェノムは低い声で「腹減った、腹減った」と愚痴るだけで全くキャラクターを掘り下げないので感情移入不可能。かといって動物的衝動で行動するヴェノムと対比して(してたか?)描かれる(ハズだった)のエディ・ブロック(トム・ハーディ)が観客の共感に値し、ヒーローと認めれる程の人間的魅力を発揮しているかと言われればそうでもない。
上記の通り、双方の思考、感情、その変化変遷、衝突、和解などの互いの絆を深める要素を全く出さずに物語を進める為、ラストにヴェノムが身を呈してエディを守る理由がサッパリ分からなのでカタルシス皆無である。そもそもヴェノムが何故エディに肩入れするのか。他の宿主と何が違うのかが一切描かれていないのがマジで致命的過ぎる。冗談抜きで『寄生獣』の表層部分だけパクったんじゃないかとすら思えてしまう。

それに新一とミギーは度胸と知能で互いの弱点を補いし合っており、バディ(二人一組)である意味を示している。しかし、『ヴェノム』においては双方、猪突猛進脳筋バカなので、互いの存在を一切補完出来ていない。バディ要素は精々、右京さんが大体の謎を解いてしまってタイトルをかなぐり捨ててるテレビドラマ『相棒』ぐらいの意味合いしかない。

細かい不満を挙げるならエディの彼女がヴェノム化したのもどうかと思う。主人公は何だかんだ言って物語において選ばれた存在なのだから、そのスペシャル感を初回から奪うってどうなの?エディが相棒である必然性をろくに提示出来てないのに、エディである必然性が無い点を強調してどうすんだって感じである。
寄生される経緯も見所の一つの筈が、80年代のラブコメ漫画の“食パン咥えたヒロインと主人公が出会い頭にドーン!”みたいな展開で既視感?というかこれじゃない感で全然盛り上がらんし。初回の変身引っ張るのはいいけど、あとちょっとで変身やでっ!!ってところで鏡(ガラス)の反射でヴェノムの姿映しちゃダメだろ!カタルシス超減退したわ。演出に一貫性がないんだよ。

それにアクションシーンが弱すぎてどこが魅せ場。何を見せたいのかがサッパリ分からない。
アイアンマンならガジェット。ソーならマジカル・トンカチ。キャプアメなら硬いだけの盾。ストレンジは超絶VFX。と時代を代表するヒーローには創作の起点となる長所が存在し、それをなぞって映画にしてるのだが、『ヴェノム』のアクションシーンを観てると何をもって映像化しようとしたのかが本当に理解出来ない。体からオクラだかメカブだか、ねば〜る君だかよく分からん粘着物質をビョーンて伸ばしてカッコイイか?ヒーロー化しても中途半端なマッシブバイオレンス描写でこれじゃスタローンやシュワちゃんの劣化でしかない。
一応はバディ・ムービーなのだから、そこを生かした戦闘をして欲しかった。脳筋のヴェノムに冷静なエディが補助するとか、ヴェノムの生態観察をして気づいた弱点をエディが突くとか、何なりとあったろ。普通に『寄生獣』の“A”戦以下の戦いって、これがハリウッドの脚本ってマジ?脚本ガチャ最低ランク引いてますわ。

それに駄作で名高い『スパイダーマン3』に出てきた一定の周波数に弱いって設定いる?これでヴィラン倒しますってのが見え見えだし、何故エディとヴェノムが上手くいっているのかすら納得させれていないのに、音波に弱いとか取って付けた設定を飲めと言われても無理だろ。アイアンマンを巨大な磁石で倒すって案並みのバカらしさ。
それに火に弱いって、ロケット発射時の炎に耐えれる生き物の方が少ないっつーの!“原作通り”を製作陣の力量の無さの免罪符に使ってんじゃねぇよ。

あと、「喰う!喰う!!腹減った!!」とか連呼する割には配給の都合が透けて見えるほど全く人間を食べず。食べても精々現役を退いた後のジャイアント白田程度の食の細さで、死に体と化したヴェノムが作品にカタルシスを生む筈もないか。
空前のアメコミブームの中でキャラクター達が配給会社やコミック社の都合で駄作として消費されるのを幾度となく観てると彼が捕食者なんだか被食者なんだか分からなくなる。

内容は☆2.0のスタンダートかつ、トラディショナルな駄作であるが、本編とは無関係な宣伝広告を長々と見せられたのでマイナス0.5ポイント。
それに本編がこの体たらくなのにシコシコポストクレジット作ってるのが本当に腹立たしい。嬉々としてカーネイジの名前出す所とか寒気がしたわ。この内輪だけ盛り上がって、観客を凍えさす極寒の薄ら寒さは駄作の超新星『ポッピンQ』思い出した。正直日本の漫画原作映画と大差ない。唯一の差は製作費だけ。金かかってる分救いようがないとも受け取れる。

トム・ハーディーの演技だけでギリ何とか保ってるようなもの。体調悪そうな演技が特に最高。まぁ、インフルエンザの高熱程度にしか見えんが。
最初に言及したが、作品の全てが『寄生獣』の下位互換。未読の方は是非読んでみてね。えっ?『寄生獣」も映画化されてる?ちょっとなに言ってるか分かりませんな。
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