Filmoja

ヴェノムのFilmojaのレビュー・感想・評価

ヴェノム(2018年製作の映画)
4.0
「マーベル史上、最も残虐な悪」との触れ込み通り、さぞや凶悪なダークヒーローが無慈悲に殺戮を繰り返していくバイオレンスなホラームービーに違いない…という期待はいとも簡単に覆され、ウェブジャーナリストを気取ったやさぐれた主人公エディと、宇宙から持ち帰られた謎の寄生生命体“シンビオート”のヴェノムとの絆を描いたヒューマンドラマだったとは…(笑)。

冗談はさておき、「アメイジング・スパイダーマン」の失敗を教訓に、いくらでもシリアスでダークな作風にできるところを、あえて誰もが楽しめる娯楽映画に仕上げたことに喝采を贈りたい。

FOX製作で言えば、「ローガン」はウルヴァリンのラストデイズを、へヴィーかつエモーショナルに描いた傑作だったけど、「X-MEN」に思い入れがあるかどうかで、観客を選ぶ作品だった。
「デッドプール」はおバカなヒーロー像を、これでもかとグロさと下品さをぶち込んで観客の笑いをさらった、最高級の低予算作品だった。

それが本作はどうだ。
観客を選ばず、下品な下ネタもなく、過剰なグロさを抑え、誰もが共感できる“負け犬の共闘”を描いて、見事なバランスを保ちながら「ヴェノム」そのものの魅力を全面に打ち出した快作(怪作?)に仕上がっている。

確かに脚本そのものはシンプルだし、ヒロインの性格がご都合主義だったり、シンビオートの設定がイマイチ詰めきれてなかったり、エディとヴェノムの関係性をもっと丁寧に描いてほしかった部分はある。ヴェノムがある決断をした動機も弱い。そして「ブラックパンサー」のように批評家が好むような大それたメッセージ性も薄い。

だけど、それがなんだ。
人生のあらゆる局面において誰もが抱える多重人格的な側面を、ヴィラン(悪役)との融合を通してここまでダイレクトに、コミカルに、そして何よりも“人間くさく”描いた本作が観客に受け入れられた事実そのものが、この映画の価値を物語っているじゃないか。

状況によってどちらにでも振れる、物事の善悪を計るのは困難だ。すべてを投げ出して自分本位になるときもあれば、不幸な他者を助けようともする。だからこそ自分の中の善意を疑い、悪意をコントロールしなきゃいけない。ちょうどエディのように。

不器用な人生の負け組にスポットを当てるような、勇気ある決断に拍手を。
そう、俺たちはヴェノムなんだ。


最後に、先頃亡くなられたマーベルのオリジン、スタン・リーのご冥福をお祈りします。
もちろん本作にもカメオ出演しており、いつもと違って含蓄のあるセリフが印象的だった。
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