一人旅

BPM ビート・パー・ミニットの一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
第70回カンヌ国際映画祭グランプリ。
ロバン・カンピヨ監督作。

1990年代初頭のパリを舞台に、活動団体「ACT UP-Paris」に所属するHIV感染者達の社会との闘いを描いた青春ドラマ。

実際に「ACT UP-Paris」のメンバーとして活動していたロバン・カンピヨ監督が自身の実体験に着想を得て製作した“社会派+恋愛ドラマ”の力作で、HIVに感染した若者達の社会との闘いと刹那的な同性恋愛の顛末を儚くも力強く謳い上げています。

同じフランス映画『野性の夜に』(1992)同様、HIVに罹患した若者の生き様に焦点を当てた作品ですが、本作はHIV・AIDSに対する社会の認知と理解がまだまだ低かった1990年代初頭のフランス・パリにおいて、1989年に発足したHIV感染者達から構成される活動団体「ACT UP-Paris」の中核的メンバーである主人公:ショーンを始めとした若者達の、社会からの偏見と差別、薬剤開発の成果を一向に公表しない製薬会社に対するデモ運動や過激な抗議活動、そして新たにメンバーに加わった非感染者の青年:ナタンと主人公の同性恋愛の顛末をドキュメンタリータッチに描き出しています。

『野性の夜に』がHIV感染者の男と女の愛を主題に描写していたのに対し、本作は『フィラデルフィア』(1993)と同じように「HIV感染者vs社会」の対立構図が中心となります。毎週1回の定例ミーティングで、HIV・AIDSを巡る様々な問題を議題として提示し、全員の多数決により今後の処理方針を正式に確定、製薬会社への抗議活動やゲイ・パレードへの参加等実際に行動を起こしてゆく「ACT UP-Paris」のメンバー達の組織的闘いの様子が活写されています。その一方で、映画の後半では、AIDSの症状がみるみる顕在化、衰弱の一途を辿ってゆく主人公と彼を献身的に支える恋人:ナタンの“個人的”な生へのもがきと迫り来る死への恐怖、そして両者の強固な愛情の顛末が切迫した状況の中に映し出されていきます。

本作はHIV感染者に救いの手を差し伸べない非情な社会に対する若者達のエネルギッシュな闘いを描き出すと同時に、AIDS発症によって確実に死へと向かってゆく一個人の悲痛な叫びを克明に捉えることで、90年代初頭におけるHIV・AIDSの実際を多面的に浮かび上がらせています。男性同士の性交渉をしっかり描き込んでいる点にも、真実性を追求するカンピヨ監督の気概が伝わってくる力作であります。
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