TOT

BPM ビート・パー・ミニットのTOTのレビュー・感想・評価

4.4
行動は生きること。沈黙は死。知識は武器。
ネットも携帯も無かった時代に、個人が集まり、知識と熱を共有して連帯する。
会議室から路上へ、ダンスフロアからベッドへ。
ハウスが揺らすフロアの光の粒子のように、全体の中で強烈に光って消える個人の愛。
自分もそこにいるようなドキュメンタリーのような演出と、浮遊感あるダンスシーンや血に染まるセーヌ川の詩情ある画が生み出す熱に引き込まれる。
HIV感染者(血友病感染の者もいる)/AIDS患者/サポーター、違う立場どうし、聾唖者とは手話を交え、侃々諤々に議論する様が面白い。
抗議活動やクラブ、セックスの細部まで精緻な描写も。
また、抗議活動はかくあるべしと圧倒された。
実際彼らの活動はもっと過激だったと思うけど、本編では抑制も効いている。
政府は保険や医療制度の拡充を、製薬会社は薬の流通と薬価引き下げを後手に回した。
その結果、アメリカでも80年代初頭に4万人もの人がAIDSで亡くなった。
誰かがのうのうと利益勘定している前で、自分も自分の愛する者もどんどん死ぬ。
90年代に、私が本や音楽、映画で親しんだ人もAIDSで死んだ。
ミシェル・フーコー、エルヴェ・ギベール、デレク・ジャーマン、フレディ・マーキュリー。
身近な人でもすごくファンというわけでもなかったけれど、彼らの作品で受けた衝撃と同じかそれ以上に彼らの死が衝撃だった。
ある朝突然にニュースが告げる死はあまりに重く苦しく、思い出すだけで胸が痛む。
最近また関連本を読み直していたので、劇中で薬の名前や病状の進行を聞くだけで、その先に待つものが頭をよぎって泣いた。
生きていてほしかった人を想って泣いた。
いま、AIDSは薬さえ飲み続ければ日常生活もできる時代になった。
でも日本でも年間1000人程度の新規感染者がいて、私が感染し、知らず誰かを感染させる可能性だって0ではない。
だからこれは実際にこの季節を体験した監督の懐古でも感傷だけの映画でもない。
あなたに生きてほしい、あなたと生きたい。
個を全体にし、全体のうちに個を見て等しい重さで紡ぐ愛と青春と変革の季節の鮮烈さに胸かきむしられて143分の時間を忘れる。
愛する人が死ぬ暴力的な悲しみへの鎮魂と、無関心への抗議、その勇気と実践の在り方を示す映画だ。
TOT

TOT