mimitakoyaki

BPM ビート・パー・ミニットのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

4.2
祝・カンヌ映画祭 グランプリ受賞!

1990年代のパリ。
HIVの感染が社会問題となり、エイズは死の病として恐れられ、同性愛者やHIV感染者への差別や偏見、政府や製薬会社の不誠実な対応などに抗議し、エイズ対策や感染者保護、マイノリティの権利向上を求めて活動してきたACT UPパリ のメンバーを描いた実話ベースの作品です。

この監督の作品は、以前「パリ20区、僕たちのクラス」を見ました。
人種の坩堝であるパリの中学校の先生と生徒たちをドキュメンタリータッチで描いていましたが、本作でも、ACT UPの会議の中でメンバーが意見を戦わせ討論するシーンなんかは、「パリ20区…」の作風ととても似ていました。

ACT UPのことは、名前を聞いた事があっただけでほとんど知らなかったのですが、HIV感染者(ゲイのメンバーが多い)や感染者の家族、当事者ではない支援者などで構成されていて、製薬会社や政府に対するアクションが結構過激で日本人のわたしからすれば、ちょっとやり過ぎちゃうかと思うようなこともガンガンにやって、そういうインパクトのあるアクションによって社会の注目を集めて社会の問題意識や関心を高めたり、実際に成果を上げたりもしているようです。

メンバーの中にはエイズを発症してる人もいて、命の期限が切られてるから一刻を争うのに、製薬会社や政府の対応が遅くやる気がないために、亡くなる人もいます。
だから、こんなやり方ではダメだ!と強硬的なアクションを求める者もいるし、それでは逆効果だと言う者もいるしで、意見の対立もたくさん起きます。
だけど、ひとりひとりが現状を変えようと真剣だし、医療や制度への知識もプロ顔負けに豊富で、デモを起こせばたくさん人が集まるしで、政治や社会への参加意識の高さに驚かされるし、どんどん体調も悪化していく中でも命を燃やすように必死で仲間と活動する姿に、その方法が多少共感しにくくても、生のきらめきを感じてとても美しいと思いました。
この人達にとって、それは生きるための闘いなんです。

デモや抗議行動などのアクションを起こすこと、クラブで踊ること、愛する人とセックスすること…
それらは全て生きてることそのもので、瑞々しい生命のエネルギーを感じます。

エイズを発症し、死によって愛する人との別れがくる寂しさや恐怖、無知によってHIVに感染してしまった悔しさ、焦りでいっぱいになり、仲間と対立してしまったり、そんな死期が迫る彼を精一杯支え愛し続けたりなど、恋愛映画、青春映画としても胸を打ちました。

それにしても、パリでは30年も前に大規模なゲイパレードがあったり、ACT UPによるデモがあったりして、進んでいることに驚きましました。
日本ではようやくダイバーシティという事が言われだし、東京や大阪でレインボーパレードも催されるようになりましたが、まだまだ注目も少ないのが現状です。
ACT UP 程ではないにせよ、日本でももっと社会や国の不正に対して疑問を持ち怒る、行動するという事を普通にできるようになればと思います。

命を賭けた彼らの懸命の闘いが確実に今へと繋がっています。
彼らの事を映画を通して知る事ができて本当に良かったし、ゲイパレードでゲイの若者たちがチアを踊る時の祝祭感が幸せな気持ちにさせてくれるし、きらきらと輝いていてとても美しかったです。
精一杯生きようとする人たちの命のきらめきが眩しくて涙がこぼれました。

タイトルのビート・パー・ミニットとは1分間に刻む拍のことで、原題では1分間に120拍 ということなので、これが心臓の鼓動だとすると通常の倍の速さだから、短い人生を命を燃やして駆け抜けた彼らのイメージと重なりました。

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