matsuitter

BPM ビート・パー・ミニットのmatsuitterのレビュー・感想・評価

5.0
20世紀末、
過激な社会運動、
HIV、
同性愛、
クラブミュージック、
ドキュメンタリー風映像。。

#Filmarks2018

以下ネタバレ。

いわゆる社会運動に関わる若者達の群像劇で、ドキュメンタリー風な撮影やフランス的な雰囲気映画のスタイルを取りながらも、同性愛かつHIV陽性でまともな薬がない状況から醸し出される終末感と、時折挿入されるクラブミュージックの幸福感との、真逆の皮膚感覚が生み出す相克。この全く新しい映像体験。唯一無二の傑作と言える。

特に冒頭のMTG(通称M)からの製薬会社襲撃はハードでインパクト抜群。そこから全く逆のクラブでのダンスシーンで得も言われぬ多幸な雰囲気とホコリとウィルスが重なる映像に繋がれる。この一連の対比描写は過去に観たことがないレベルのオリジナリティで、特に音楽演出はリアルな心情をそのまま音に乗せることにフォーカスし、決して煽ることなくその場にシンクロさせる効果には度肝を抜かれた。

過激すぎるパフォーマンスや、社会運動系映画によく登場するキャラの分かりやすい若者像、無軌道さや自分探しなどテンプレ的なイメージが見え隠れして鼻につくような感じがありながらも、ほぼ全員がHIVポジティブで死に直面しているという事実がそれらの薄っぺらさを吹き飛ばしている。生きるためにやれることをやるしかない。その言葉と行動には命の息吹が宿っていた。

私はディベート大好き人間なので、Mのシーンで賛同者が指を鳴らす雰囲気がものすごい好き。映画内の議論は常に白熱し、主流派が状況分析して次はこの戦略をとるべきと主張すると、外野が本来どうあるべきかという原則に立ち返って反論するなど、直球の意見がガンガン出る展開が気持ち良かった。

中盤は視点を主に2人の関係にフォーカスして、エンタメ性を無視するレベルでしっかりと描いていく。男性同士の絡みや、仲間を失う過程を過剰なまでに描写する展開から受ける感覚は、今までに感じたことがない程リアルである。恋愛という生の絶頂から、それほど遠くない未来に訪れる回避不可能な死。この展開は映画的には暗くて長いし、ここまで悲壮感に溢れた描写は稀である。決して面白さがあるわけではない。でもこれを観させることは必要だったのだ。この辛すぎる死を誰もが直面するということを、観る者に実感させることが、この映画の、そして活動の本質的役割ではなかっただろうか。

男性同士の絡みのシーンがあまりに具体的だったので、ストレートの私は気持ちのやり場を完全に混乱し、非常に失礼な言い方をすると異世界の人間を観ている感覚に陥ってしまった。不治の病を患う同性愛者という世紀末SFを観ているような気分になり、でもそれが20世紀末の現実だったことを思い直して我に返って、その悲痛さに心を震わせました。
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