m

それからのmのレビュー・感想・評価

それから(2017年製作の映画)
4.7
キム・ミニ(以下:キムさん)との関係が始まってから、ホン・サンスの映画は明確に変わり始めた。キムさんというひとりの人間との関わりは、ホン監督の中に新たな人間観の深みをもたらしたと思う。

ひたすら面倒臭い三角関係とそれに巻き込まれる女性の人間模様を描くこの映画の中で、最も何か真実めいたものがある瞬間はキムさん扮するアルムと社長が中華を食べながらお互いの話をするシーンで、ここで何か理由が説明できない深みのようなものに呑み込まれる感覚がある。
それ故にその後のひたすら泥沼な三角関係によってアルムと築けたかもしれない信頼関係を失う社長の慟哭になんとなく悲哀を感じたりもする。その直後に最低なしょうもない企みをするのだけど。そして『あれ、また最初に時間軸戻った?』と思いきや、のエピローグでなんともしみじみ。ドラマチックにはいかない、ひたすらしょうもないけど、でも確かなものもあった気がする。それが人生さ。美しいモノクロ映像の中で描かれる仄かな苦味と虚しさと刹那の美。

タクシー車内のキムさんの長回しショットの、なんと美しい事か!あそこは映画の神様に愛されていた。映画全編でキムさんは本当に魅力的。

ホン監督お馴染みの変なズームもだいぶ意図がはっきりしてきた感じ。音楽も良かった。

ホン監督とキムさんのコンビ作はまだまだ観てみたい。

それにしても監督の元妻からしたら、『テメェ愛人とこんな映画作りやがってブッ殺すぞ』としか言い様がないだろうなとは思う。
m

m