Yarrtt

それからのYarrttのレビュー・感想・評価

それから(2017年製作の映画)
4.5
伏線を回収ではなく説明し、感情の高ぶりや嘘などのテンションに合わせて「レンズの存在」をあからさまにに見せるズームをし、「ままならぬ」ことを嘆きつつ嘲笑するかのように音楽を挿入する。

映画の当たり前の在り方を批判するこれらの装置はあからさま過ぎて、伊藤洋司が毎度絶賛していなかったら観ているだけで不安になってしまっているだろうと思う。

昼夜の区別がつきにくい露出が高いモノクロームは、時間軸の面でリアリズムを棄てているこの作品の編集の正当性を保ち、物語の空気感と拡張性に貢献している。
モノクロの世界ではっきりと見えるアナログの壁掛け時計は午前を指しているのか午後を指しているのか判別がつかない。

特に中華料理屋で「日差しが綺麗ですね」と言うシーンは我々が普段絶賛するフェルメール的なダイナミックな光と陰影ではなく、非常にマットで時間も美しさも解りづらい光を見せている。
ここでもホン・サンスは映画の美意識に於けるクリシェを立ち上らせ、それと同時に登場人物が体験する世界と我々が見る世界の断絶を図る。
これには「共感」を目的とせず、寧ろ「嘲笑」の対象であるコメディ映画内の出来事であることを示すという、徹底した一貫性がみられる。

そして、そんな平面的で無表情なカットを羅列しただけで終わるはずもなく、突如として降り注いだ「夜の雪」。
ここでこの映画に登場する他の全ての小津的定点アングルは使わず、狭いタクシーの中のシーンにすることで立体的なアングルにならざるを得ず、なんとキム・ミニの表情に立体感が表れ、窓の外は雪と闇のまだら模様という立体性が無くとも美しい光として、この映画の一貫性を崩さずに女優を包み込むではないか。やりやがったな、美しいじゃないか、公私の区別もつかぬ変態め!
Yarrtt

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