シネマJACKすぎうら

それからのシネマJACKすぎうらのレビュー・感想・評価

それから(2017年製作の映画)
4.0
なんかオープニングからして過剰なフランスメロドラマ調の音楽にしても、主人公と三人の女性が織りなす会話の機微にしても、終盤に引用される夏目漱石にしても、、全ては同じ向きのベクトルを為しているように思えてならない。

それは小さな出版社を営む主人公の、情けなさ、身勝手さ、滑稽さを浮き彫りにするためのもの。同年に製作された「夜の浜辺にひとり」にも見られた、どこか無造作な寄りのカメラワーク。これが本作においては、愚かな主人公や不毛な会話に見物人を「おいで、おいで」と呼び寄せるための動作に過ぎぬのではないだろうか。

ところが、このゲスな主人公を上から目線で後ろ指をさすことも、小馬鹿にすることもなんだか憚れる。いや、むしろ愛着や親しみすら感じてしまう。。

きっとそれは、ホン・サンスが彼自身に注ぐシニカルで自虐的な目線が、主人公に投影されているからではないだろうか。

そして、ラストカットにもあの音楽。さらにそこでカメラが捉える被写体といったら、、もうほとんどコントの世界にしか見えないのだ。