はぎはら

ジュピターズ・ムーンのはぎはらのレビュー・感想・評価

ジュピターズ・ムーン(2017年製作の映画)
4.1
ハンガリーの俊英、コーネル・ムンドルツッオ監督作品。前から楽しみにしていたのですが、ようやくこの週末に観ることができました。

前作の「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」でもテーマとなっていた無垢な存在への希求が、本作でも強く感じられました。

シリア難民の少年と、医療事故で職場を追われた医師が主人公。
医師は難民収容所で医療に従事しながら、難民の国外脱出の面倒を見て金銭を得ています。医師には家族もなく、生きていく場所が閉ざされているように見えます。
一方、シリア難民の少年は、国境地帯でハンガリー警察の刑事に狙撃され致命傷を負うものの、一命をとりとめ空中浮遊という超能力を身につけます。

難民収容所で、少年の空中浮遊する姿を目撃した医師は、少年を利用して閉ざされた状況を突破しようと試みます。打算的な目論見とは別に、医師は少年を鳥のように地上に縛り付けられない存在として、引きつけられていきます。

警察に追われ、逃走するシーンでの横移動の多用やローアングルカメラでのカーチェイスの疾走感と、少年の空中浮遊シーンの静けさが対比されます。世界を包み込むような無垢な存在としての少年の特異性が際立っていました。

ハンガリーの閉塞感やヨーロッパ全体が抱える難民問題やテロへの恐怖をモチーフにしながら、未来の芽を生み出すものとして空中浮遊する主人公とともに街の景色を描く、ムンドルッツオ監督の祈りのメッセージが強く刺さってきました。
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