フラワーメイノラカ

2重螺旋の恋人のフラワーメイノラカのレビュー・感想・評価

2重螺旋の恋人(2017年製作の映画)
3.8
分裂症/双子/幻覚など、頻出するモチーフはまるでP・K・ディックのよう。
DNAについての映画なので、これは邦題が正解なのかも。

「クロエ」の語源は「光」といったような意味に辿りつく。
彼女が光源で且つ実像であるならば、やはり双子は転射された虚像なのだろう。
目を逸らしたいのに抗えない、はらわたに潜んだ欲望をめぐるサイコ・ミステリー。

双子の謎を追うクロエだが、病んだ精神と肉体の原因は過去ばかりではない。
双子は、ともすると将来授かるかもしれない子どものようでもある。
未来への漠たる恐怖、脅え。
『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)みたいだな、と思ったら黒沢清が対談で突っついてた。藪蛇。

フランソワ・オゾンがこれまで扱ってきたテーゼも、輪廻のように形を変えて現れる。
現実を侵食する虚構、その内面化に伴う倒錯、そして美しい悪徳を孕む。
この負の円環を生み出しているのは、個人の心に大きく空いたブラックホールーー「死(タナトス)」の衝動だ。

それらが渾然となって、螺旋状にクロエを襲う。
死に対抗する手段として、彼女は「生(エロス)」に縋りつく。ひたむきな渇望。
もちろんそれは逃避ではなく、拮抗の手段としてのセックスなのだと思う。

鏡映しであることを強調する演出により、心象風景は具現し、対象化された悪徳が分娩される。
悪夢が醒めていくような印象深い結末…なのに、最後の「本能」みたいなシーンで台無しにする悪趣味さについ笑ってしまった。
ずっと繋がれて居たいもんね、しょうがないね…?