菩薩

ビューティフル・デイの菩薩のレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
3.9
歪に調律された開放弦が掻き鳴らされ、響き渡る不協和音。ジョニー・グリーンウッドが奏でる象徴的な音から始まるこの映画は、そのまま歪められた過去が齎す不安からの解放を意味する作品の様に思えた。過去に心を殺された一人の男、男はそんな過去にハンマー片手に挑んで行くが、過去はそう易々とは砕けない。心を消失してしまった幼き少女、表情すらも忘れながら、尚も彼女の美しさは生き続ける。出会ってしまった孤独な二人、互いに心は死した身、他人の命などもはやどうでも良いが、その目からは涙が、その身からは赤い血が流れる。彼が彼女を救ったのか、それとも彼女が彼を救ったのか、殺したのか、彼女は本当に存在しているのか、彼は果たして。どちらにせよ「あなたはそこにいますか?」の問いに答えを出すのは、いつでも己では無い誰か、他者の存在である。もはや二人の過去を知る者は皆生き絶えた、雨は止み二人には柔らかな陽光が指す、こんな息苦しい世の中であったとしても、明日からは希望に満ちた美しい日が続くのだろうか。ハンマーを捨てた手に握るのは、彼女のそのか細い手になるのかもしれない。
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