JT

ビューティフル・デイのJTのレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
5.0
この他にない特別な余韻はなんだろう
エンドロールで震えるほど全てが刺激的で魅力的だった

最初に劇場で観てもう一度観たいとレンタルされるのを待ち続けて本当に待望の再鑑賞です

過去にトラウマを抱えたホアキン演じる元軍人のジョーが売春された少女ニーナを救い出す話で、非情な社会の中で壊れたふたりの心の救済を描いています

ホアキン・フェニックスのずっしりとした存在感と引き込まれるような演技がとにかく凄まじいです
見事にジョーの心情を表し不安を煽るグリーンウッドの不協和音と50年代の音楽が良いスパイスを効かせる
そして女監督のリン・ラムジーが写し出す無力感、虚無感、閉塞感、不安、絶望に溢れた行き場のない現代社会を独特なセンスで傷ましく描き切った
冒頭と結末のシーンが完璧で、どの描写を切り取っても頭に鮮明に残ってしまう映像の芸術性がありました
これほどの魅力を90分の短さに凝縮したのは脱帽です

原題は『You Were Never Really Here』
直訳すると、"あなたは本当はここにいない"
焦点はジョーという過去に囚われ心が壊れた男
幼い頃の父親の虐待や兵役時の壮絶な体験
毎日救えなかった子供達を思い出し幻覚を見る
映像に写し出されるのは現実か夢か妄想か
ジョーの頭の中で曖昧になって入り混じり、無力感を払うために金槌を手にして残忍だった父を真似る
現実味をなくしたジョーにニーナが声をかける「今日はいい日よ」これが邦題の『ビューティフル・デイ』に繋がり、ラストの解釈は観客に委ねられる
原題の意味は過去に囚われたジョーは現在に存在している実感すらないことを指しており、それが終盤では違った意味合いに変化を遂げる本当に素晴らしい作品だった

救いようのない世界のどこに出口を見つけるか





以下ネタバレ↓





最後のシーンについて
ジョーが自殺した描写は過去のトラウマに囚われていた自分を断ち切ったことを意味し、ニーナがテーブルに戻ってくるとジョーの頭を撫でてその位置が丁度銃弾が貫通した所ですよね。ニーナのおかげでジョーは救われ、ジョーと出会ったことでニーナも救われました。エンドロールに入るとテーブルにいたはずの2人が姿を消しています。過去に生きていた2人はもういないんです。まるでそこに誰も存在していなかったかのように。
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