マヒロ

ビューティフル・デイのマヒロのレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
4.5
表沙汰には出来ないような汚い仕事を請け負う元軍人らしき男・ジョー(ホアキン・フェニックス)は、ある日政治家から行方不明になった自分の娘を探すように依頼されるが……というお話。

夜露に濡れる路面や車窓がたまらない、『タクシードライバー』にも通ずるものがある都会の闇・もとい病み系映画。
触ったら爆裂しそうなヤバイ奴を演じさせたら今右に出るものはいないホアキン氏の演技は今作も健在。
従軍時に起きた出来事と幼少期の父親からの虐待というトラウマのフラッシュバックに悩まされ、常に死ぬことばかり考えながら最後の一歩が踏み出せないような男で、いつ破滅してもおかしくないような危険な仕事を生業としているのもあえて自分を危険に晒したいからなんじゃないかという気がする。
ただ完全に心を失ってしまったわけではないようで、心に傷を負った少女を救うために仕事の範疇を超えて行動したり、致命傷を負って倒れた敵が命令されて動かされただけの駒だったと気づいて最期を看取ってやるなど、自分と同じような境遇でもがく人に対しては優しく接することが出来る。特に後者、ラジオから流れてくる『愛はかげろうのように』を二人で歌う場面は、地獄の中に垣間見える爽やかさがあって、不思議な感動を覚えるシーンだった。

かなり特異な映画ではあるけど、まず一番目(耳?)についたのは劇伴の異様さ。PTアンダーソン監督の映画でおなじみのジョニー・グリーンウッドが担当しているんだけど、微妙に拍がズレていたり、映画そのものを切り裂くような強烈なノイズが掻き鳴らされたりと、壊れてしまっているジョーの心をそのまま表したかのような奇妙な音が鳴り響く。言葉少なな映画なので、その代わりにシーンを語っているかのような印象を受けた。彼の担当したスコアの中では今のところ一番好きかも。

映像センスも素晴らしくて、ジョーが暮らす街の喧騒を切り取ったいくつかのショットや水葬シーンの美しさ、カチコミで淡々とハンマーで暴れるジョーを幽霊のように映し出した不思議なシーンなど、前述の音楽と併せて脳裏にこびり付くような強烈なインパクトがあった。

ラストシーン、ジョーの心境の変化を一発で表現するワンショットから、謎の邦題の由来まで回収するセリフなど、終わり際も素晴らしく良かった。
ストーリーがかなりシンプルというか、思ってたより混み入っていないところに若干の物足りなさを感じもしたけど、間違いなく忘れられない一本になった。

(2019.67)
マヒロ

マヒロ