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ラブレスのRのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.7
Lovelessというインパクト強めなタイトルとジャケットの雰囲気から、重そうな映画だなーと敬遠していたのですが、重い腰を上げて見てみたら……めちゃくちゃ面白かった!!! どちらかというと好物でした! まず、冒頭、ピアノとストリングスがダークで重ーい感じにタンタンタンタンタンタンタンタンと鳴り響く。😨さ…最初から…ヘヴィー……画面に映るのは、雪に覆われた黒ずんだ樹々、わらわら伸びるさらばえた枝、冷たいグレーの空……ワー、ど頭からとばしてるなー。学校が終わり、はしゃいで校舎から出てくる子どもたちのなかから、ひとり、とぼとぼ孤独に歩いていく少年。おうちに帰ると、新婚さんが物件の下見にやって来てる。自分らが出たあと、このマンションに入ろうかと。少年アレクセイの両親は離婚することが決まってて、新たに恋人がいるふたりは、ある日、どっちがアレクセイを引き取るかの押し付け合いをし、激昂して大声で罵り合う。それを息子のアレクセイはこっそり聞いてしまっている。このときの彼の表情……恐くて記憶に焼きついて離れない。で、両親はそれぞれの恋人と密な時間を過ごします。ふたりのセックスシーンがやたら生々しく描かれる。父のボリスの相手は妊娠してて、お腹が大きく、横にな寝そべる彼女を背後から突きまくる。母のジェーニャはとても禿げ気味の新しい彼氏と、激しいセックスをしている。必要以上に長くねっとりとセックス描写。その間に、息子アレクセイは姿を消してしまう……どこを探しても見当たらない。アレクセイはどこへ行ってしまったのか。ふたりはアレクセイを探し出そうとするのだが……という流れ。タイトル通り、果てしなくラブレスなふたりの様子が、荒涼たる風景のなか、じっくり、じっとり描かれていく。その景色は、茫漠たる人間の心の反映のよう。ほとんどニコリともすることなく、ふたりは自分のことばかりを気にしてる。父ボリスはいかに今の会社で安泰の地位を築くかに腐心し、妻のジェニーはどこにいてもスマホをいじり、SNSにあげる写真を撮るのに余念がない。そして、顔を合わせれば、言い合いが絶えない。どこからどうみてもそれが彼らの在り方のデフォルトであるようなので、どれほど彼らが新しい恋人と愛いっぱいにイチャイチャしていようが、その先どうなるのかが簡単に見通せてしまう。宿命とはまさにこのことだ。付き合う相手が変われば、自分の心の持ちようも当然変わるだろうと思うのは、人間なら誰しもあり得ることだ。だが、一時ののぼせ上りは、刹那の気休めでしかなく、やがて自分の心は、いつもの状態、デフォルトの状態に傾いていかざるを得ない。エンドレスなループに嵌ってしまったその様を、容赦なく冷徹に描き切っている本作は、それをさらに広く、社会的な状況へと押し広げ、人間と社会が不二であることを見せようとしているのではないか、と思った。後半は、彼らの人間性から視点が離れていくため、まるで彼らが、心の中に広がっていくラブレスネスを閉じ込めておくためだけの抜け殻のようにすら見えてくる。それが、あまりに虚しく、痛々しく、見ているこちらの心も彼らの茫漠たる心にインシンクしていくように感じられてくる。だが、そういった中に、一方で、人間的利他の精神を失うまいと奮闘する人々が描かれているのが興味深く、その描かれ方にそこはかとない厳しさがただよっているのは非常に示唆的だ。人間の心の中で、常に善と悪、正と不正、天国と地獄がせめぎ合っているからなのだろう。話が進むにつれて徐々にテーマの抽象性が高まっていき、特に終盤は、見ているこちらがどうとらえるかによって、色合いがかなり違って見えるはずである。ただ、そのズーーーーーンとした重みと見通しのよろしくないグレーな感じは、極めてペシミスティックな監督自身の視線なのかもしれないな、と思って。いやー、かなり居心地の悪い、気持ちの悪い映画だった。この作品を家族や恋人と見ることはマジでオススメしません。一人で見るか、今後ずっと友だちでいたい人と見て、いろいろ考えてみるのがイイんじゃないかな、と思います。僕は、やっぱり人間は、不断の向上心と他者への慈悲心が何よりも大事で、常に自分の在り方を自分に問いながら、昨日より今日、今日より明日、と自分の心を磨いていくしかないんだろうな、と思いました。自分の心の赴くまま、他者の苦悩に無関心に生きてると、心のあたたかいうるおいが枯渇し、気づけば荒涼とした心象風景が広がっている。人間とはそのことにどれほど盲目的になってしまえるか。これぞまさにトランスグレッション。

他のユーザーの感想・評価

K

Kの感想・評価

1.1
「子どもを大切にしなければならない」という神話を前提に作られているため、共感できなかった。

さっさと子どもを施設に預けた方が、全員が幸せになったのかもしれない。そういう皮肉なら面白いけど。
pino

pinoの感想・評価

4.0
物語は行方不明のアレクセイを中心に展開するけど、途中から冷たく困惑に満ちた家族の様子とニュースで流れる内紛の様子が交差していき人間の他者を思う難しさと哀しさを見せつけられた感じ。
Norway

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2.6
タイトル通り、ラブレスだった。
皮肉なことに父親と母親は、それぞれのパートナーとラブラブだったけど。

細かいことは説明されないけど、映像に漂うモノ悲しい重苦しさが、少年の心象を見てる側を伝えてくる。
結局、子供の存在を望まなかった二人が、失ったことでその後の生活も虚無になるということが皮肉。

ロシア人監督が、このクライマックスを持ってきているのがメッセージ性の強さを決定付けてる一本。

このレビューはネタバレを含みます

最後の川?のシーンやめてくれよ…
息子が夫婦の喧嘩聞いてたシーンもドギツい

ロシアの社会問題が詰め込まれているみたいだけど人類根本はどこも同じな気がした
「大変!」と騒いでも数ヵ月後には他人事だよね

このレビューはネタバレを含みます

タイミング見計らって鑑賞。
う~ん…暗い💧

子育てとか夫婦生活って、当たり前に反抗期、倦怠期があって喧嘩もする。
子ども、両親それぞれ、やりたいことはたくさんあって、時には相手を後回しにして自分を優先した方が良いと思う。
それに今の時代、人間ってかなりの割合で"自分の事で精一杯"だと思う。
だから大抵の登場人物は、いけ好かないやつでも、いつもあんまり批判できない。
けど、この両親は酷いな。心理的虐待。母方祖母が少し出て来るけど、母娘揃って超攻撃的で他罰的。父親も頼りないし他人事。しかもずっと。
二人とも、アレクセイが出ていく朝に食卓で流した涙どころか、不在だということに2日も気付かない。ラスト近くに事の重大さが分かったようだが、時すでに遅し。残るのは、いくら新しい生活をスタートさせても一生心に居座る虚無感🫥

アレクセイの失踪を軸にしてるけど、彼を描く時間は短い。この映画は、この家族を通して、虐待の連鎖や、自分本位が生む結果を描こうとしたんだろうか?🤔 それとも時折挟み込まれる日常の風景やニュースを見ると、社会が周りに対してあまりに無関心だという警鐘だろうか?🔔

僕には的を絞りきれなかったけど、こちらの問題かと。重く苦しいストーリーでした。
ロシア郊外の、美しいながらも暗く寒々しい景色🌨️ 可哀想に、アレクセイは寒かったと思う。
あらん

あらんの感想・評価

4.5
愛のもと生まれてきたのに
大人の勝手で必要とされなくなる少年が悲しい
行方不明のままでいるのは復讐に思えてならない
takuto

takutoの感想・評価

4.1
素晴らしかった。
派手な演出はないが、淡々と人間の醜く寂しい部分が剥き出しになっていく。
崩れた人間性と対比するように均等のとれた構図や、秋と冬の間の曇ったロシアの空が、悲しさを際立たせていた。
そして凄惨な政情を伝えるテレビやラジオ、宗教、不倫相手も抱えてる問題が挟まる。
世界に愛が足りてない。
自己中な親の子供って哀しい
全然相手にしてなかったのに、家からいつの間にか居なくなったとしったら大騒ぎ、警察にあたり、ボランティアに頼り…面倒な人達だ
藤澤新

藤澤新の感想・評価

4.9
そこに愛はあるんか。というよりも、そもそも愛はあるんか(存在するんか)と思った。愛だと思っていたものが愛じゃなかった。父も母も結局おんなじことを繰り返す。愛が無いからいけないのか、愛があると信じているからいけないのか。

ずっと空虚、物足りない感じがした。登場する人がみんな空っぽ。中身がないとか、人間としての厚みがないとかそういうことではなくて、空っぽな感じがした。けど、あの息子だけは中身が詰まっている感じがした。涙が温かい感じがした。友達はビミョーだけど。
ジジイ

ジジイの感想・評価

4.0
ロシア語の原題は「非愛」であり単に「愛が無い」というより、より強く「愛の対極」をイメージする言葉だという。ニュアンスとしては「憎しみ」ではなく「無関心」が近いのではないか。ここに登場する夫婦は確かに最低なのだけれど、自らの幸せを渇望するあまりに、周りに対する思いやりを無意識のうちに忘れ去っているという意味で、われわれとそこまで遠くない。身近な人たちを幸せにすることが結局、自分自身を幸せにする近道であること。それはきっかけさえあればいつでも呼び戻すことのできる真理だと、この作品は信じているような気がした。





以下ネタバレです。






何と言っても冒頭の、子どもが両親の会話を聞いてしまうシーンの衝撃がすごい。翌朝逃げるように家を飛び出した小さな背中を最後にわれわれは二度と彼の姿を見ることができない。これは監督が最初から決めていたことだという。だからこそラストの川面を不気味になぞるカメラの視線に、観客は底知れぬ恐怖と絶望と悲しみを覚えるのである。そして「エレナの惑い」がそうだったように今作でも、登場する3つのアパートは全てスタジオのセットである。自然光としか思えない絶妙な照明と撮影のマジックに今回もしっかりと騙された。人探しのボランティア団体は実在のもので、ロシアの広大な国土の中で相当な成果を上げているという。鑑賞しながら道志村の出来事が何度か頭をよぎった。
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