ジジイ

ラブレスのジジイのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.0
ロシア語の原題は「非愛」であり単に「愛が無い」というより、より強く「愛の対極」をイメージする言葉だという。ニュアンスとしては「憎しみ」ではなく「無関心」が近いのではないか。ここに登場する夫婦は確かに最低なのだけれど、自らの幸せを渇望するあまりに、周りに対する思いやりを無意識のうちに忘れ去っているという意味で、われわれとそこまで遠くない。身近な人たちを幸せにすることが結局、自分自身を幸せにする近道であること。それはきっかけさえあればいつでも呼び戻すことのできる真理だと、この作品は信じているような気がした。





以下ネタバレです。






何と言っても冒頭の、子どもが両親の会話を聞いてしまうシーンの衝撃がすごい。翌朝逃げるように家を飛び出した小さな背中を最後にわれわれは二度と彼の姿を見ることができない。これは監督が最初から決めていたことだという。だからこそラストの川面を不気味になぞるカメラの視線に、観客は底知れぬ恐怖と絶望と悲しみを覚えるのである。そして「エレナの惑い」がそうだったように今作でも、登場する3つのアパートは全てスタジオのセットである。自然光としか思えない絶妙な照明と撮影のマジックに今回もしっかりと騙された。人探しのボランティア団体は実在のもので、ロシアの広大な国土の中で相当な成果を上げているという。鑑賞しながら道志村の出来事が何度か頭をよぎった。

他のユーザーの感想・評価

R

Rの感想・評価

4.7
Lovelessというインパクト強めなタイトルとジャケットの雰囲気から、重そうな映画だなーと敬遠していたのですが、重い腰を上げて見てみたら……めちゃくちゃ面白かった!!! どちらかというと好物でした! まず、冒頭、ピアノとストリングスがダークで重ーい感じにタンタンタンタンタンタンタンタンと鳴り響く。😨さ…最初から…ヘヴィー……画面に映るのは、雪に覆われた黒ずんだ樹々、わらわら伸びるさらばえた枝、冷たいグレーの空……ワー、ど頭からとばしてるなー。学校が終わり、はしゃいで校舎から出てくる子どもたちのなかから、ひとり、とぼとぼ孤独に歩いていく少年。おうちに帰ると、新婚さんが物件の下見にやって来てる。自分らが出たあと、このマンションに入ろうかと。少年アレクセイの両親は離婚することが決まってて、新たに恋人がいるふたりは、ある日、どっちがアレクセイを引き取るかの押し付け合いをし、激昂して大声で罵り合う。それを息子のアレクセイはこっそり聞いてしまっている。このときの彼の表情……恐くて記憶に焼きついて離れない。で、両親はそれぞれの恋人と密な時間を過ごします。ふたりのセックスシーンがやたら生々しく描かれる。父のボリスの相手は妊娠してて、お腹が大きく、横にな寝そべる彼女を背後から突きまくる。母のジェーニャはとても禿げ気味の新しい彼氏と、激しいセックスをしている。必要以上に長くねっとりとセックス描写。その間に、息子アレクセイは姿を消してしまう……どこを探しても見当たらない。アレクセイはどこへ行ってしまったのか。ふたりはアレクセイを探し出そうとするのだが……という流れ。タイトル通り、果てしなくラブレスなふたりの様子が、荒涼たる風景のなか、じっくり、じっとり描かれていく。その景色は、茫漠たる人間の心の反映のよう。ほとんどニコリともすることなく、ふたりは自分のことばかりを気にしてる。父ボリスはいかに今の会社で安泰の地位を築くかに腐心し、妻のジェニーはどこにいてもスマホをいじり、SNSにあげる写真を撮るのに余念がない。そして、顔を合わせれば、言い合いが絶えない。どこからどうみてもそれが彼らの在り方のデフォルトであるようなので、どれほど彼らが新しい恋人と愛いっぱいにイチャイチャしていようが、その先どうなるのかが簡単に見通せてしまう。宿命とはまさにこのことだ。付き合う相手が変われば、自分の心の持ちようも当然変わるだろうと思うのは、人間なら誰しもあり得ることだ。だが、一時ののぼせ上りは、刹那の気休めでしかなく、やがて自分の心は、いつもの状態、デフォルトの状態に傾いていかざるを得ない。エンドレスなループに嵌ってしまったその様を、容赦なく冷徹に描き切っている本作は、それをさらに広く、社会的な状況へと押し広げ、人間と社会が不二であることを見せようとしているのではないか、と思った。後半は、彼らの人間性から視点が離れていくため、まるで彼らが、心の中に広がっていくラブレスネスを閉じ込めておくためだけの抜け殻のようにすら見えてくる。それが、あまりに虚しく、痛々しく、見ているこちらの心も彼らの茫漠たる心にインシンクしていくように感じられてくる。だが、そういった中に、一方で、人間的利他の精神を失うまいと奮闘する人々が描かれているのが興味深く、その描かれ方にそこはかとない厳しさがただよっているのは非常に示唆的だ。人間の心の中で、常に善と悪、正と不正、天国と地獄がせめぎ合っているからなのだろう。話が進むにつれて徐々にテーマの抽象性が高まっていき、特に終盤は、見ているこちらがどうとらえるかによって、色合いがかなり違って見えるはずである。ただ、そのズーーーーーンとした重みと見通しのよろしくないグレーな感じは、極めてペシミスティックな監督自身の視線なのかもしれないな、と思って。いやー、かなり居心地の悪い、気持ちの悪い映画だった。この作品を家族や恋人と見ることはマジでオススメしません。一人で見るか、今後ずっと友だちでいたい人と見て、いろいろ考えてみるのがイイんじゃないかな、と思います。僕は、やっぱり人間は、不断の向上心と他者への慈悲心が何よりも大事で、常に自分の在り方を自分に問いながら、昨日より今日、今日より明日、と自分の心を磨いていくしかないんだろうな、と思いました。自分の心の赴くまま、他者の苦悩に無関心に生きてると、心のあたたかいうるおいが枯渇し、気づけば荒涼とした心象風景が広がっている。人間とはそのことにどれほど盲目的になってしまえるか。これぞまさにトランスグレッション。
あらん

あらんの感想・評価

4.5
愛のもと生まれてきたのに
大人の勝手で必要とされなくなる少年が悲しい
行方不明のままでいるのは復讐に思えてならない
takuto

takutoの感想・評価

4.1
素晴らしかった。
派手な演出はないが、淡々と人間の醜く寂しい部分が剥き出しになっていく。
崩れた人間性と対比するように均等のとれた構図や、秋と冬の間の曇ったロシアの空が、悲しさを際立たせていた。
そして凄惨な政情を伝えるテレビやラジオ、宗教、不倫相手も抱えてる問題が挟まる。
世界に愛が足りてない。
自己中な親の子供って哀しい
全然相手にしてなかったのに、家からいつの間にか居なくなったとしったら大騒ぎ、警察にあたり、ボランティアに頼り…面倒な人達だ
藤澤新

藤澤新の感想・評価

4.9
そこに愛はあるんか。というよりも、そもそも愛はあるんか(存在するんか)と思った。愛だと思っていたものが愛じゃなかった。父も母も結局おんなじことを繰り返す。愛が無いからいけないのか、愛があると信じているからいけないのか。

ずっと空虚、物足りない感じがした。登場する人がみんな空っぽ。中身がないとか、人間としての厚みがないとかそういうことではなくて、空っぽな感じがした。けど、あの息子だけは中身が詰まっている感じがした。涙が温かい感じがした。友達はビミョーだけど。
Voveam

Voveamの感想・評価

4.7
もっと早くに観たらよかった…。2014年クリミア危機から続くウクライナ紛争が下敷きか。おとな達は自分のことだけ。犠牲になるのはいつも子供たち。
きのこ

きのこの感想・評価

4.1
あの両親が求めている幸せや愛ってなんなんだろうって事態が深刻になるにつれてふたりの言動ひとつひとつに悲しさと苛立ちでいっぱいになる。環境や側にいる人を変えても似た問題を変わらず繰り返していくんだろうな、、

でも母親をみてきっと彼らもそういう環境で育ってきたから解らないのかもしれないなって思ってしまった。渇望してるモノは目の前の気づきから始まるのに。

テレビやラジオからの情報と寒くて曇った空がより心を重く暗くなったし、アレクセイが声を押し殺してドアの裏で泣いてたシーンが忘れられない。今すぐあの家から連れ出してあげたくなった。暖かくて安心できる場所でどうか生きていてほしい。


身近な人と寄り添い合って受け入れ合って支え合って感謝できる日常に愛を感じる人になりたいと改めて思わせてくれたから、観れてよかったです。
★★★liked it
『ラブレス』 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督
Loveless

ロシア発
◎タルコフスキー風味映像
離婚する夫婦&犠牲となる息子

空虚&思いやりのない社会
as ポスト社会主義ロシアの危険性

捜索するボランティア
= 社会主義から受け継がれたコミュニティ

政権批判&失われたもの

Trailer
https://youtu.be/PEzM9-UGTkk
ボリスとイニヤは離婚が決まっており、お互いすでに新しいパートナーもいる。
そんな中、息子のアレクセイをどちらが引き取るかで口論になり、その会話をアレクセイが偶然にも聞いてしまう。
翌日学校に行ったきりアレクセイが行方不明になり、二人は捜索願いを出すが…

まぁ〜どこまでも救いのないお話。
重たいし、胸糞です。まさに映画の頭からケツまでLOVEがLESSしてます。
もうお互いに新しいパートナーも生活も控えていて、息子はどっちが引き取る?問題で口論してるシーンがヒドいこと。
お互いの主張も全部自分のことだけで、一切息子の心配をしていない。
「好きの反対は“無関心"」なんて言葉がありますが、まさにそれを体現しています。
その会話を聞いて、声にならない声で泣き叫ぶアレクセイが観てられない…。
行方不明になる前日も、お互い新しいパートナーとイチャコラしていて、アレクセイが帰ってないことに気づきすらしていないし…。
そのイチャコラシーンを妙に生々しく、長めに観せてくるのもワザとなんでしょうね。

んで、行方不明になったあとも警察に相談するけどどこか塩対応。
イニヤの母のところを訪ねてみるけど、ものすごい剣幕で罵られるだけで追い出されてしまう。
二人とも捜索はしてるけど、どこか上の空な感じ。
ほんとにアレクセイの身を案じているのはまったく関係のない市民ボランティアだけでは?と思ってしまう。
出てくる人みんな、LOVELESSだよ…。

そんな二人が迎える結末とは。
明確な結末は提示しないけど、そりゃあこうなるわなっていう展開。
劇中もほとんど音楽がないし、ロシアの寒そうな冬景色や灰色の画角がメインなので終始ドンヨリします。
「愛」ってなんなんだろ…。
「ラブレス」の感想・評価を全て見る

ジジイさんが書いた他の作品のレビュー

BLUE GIANT(2023年製作の映画)

4.5

原作は未読だし完全にノーマークだったけど、友人に勧められるままドルビーアトモスで急遽鑑賞。結果、死ぬほど感動した。何だこれ。主人公のサックスへの不器用だが真摯で強烈な情熱が、そのままこの作品の映画化へ>>続きを読む

ロストケア(2023年製作の映画)

4.0

このレビューはネタバレを含みます

斯波(しば)が介護士になろうとしたのは何故なのか。自分と同じように介護で共倒れになりそうなのに、どこからも救いの手が差し伸べられない境遇の家族を見つけて、自らその「救い」を与えたいと考えたのだろうか。>>続きを読む

セイント・フランシス(2019年製作の映画)

3.9

記録。面白かった。重くなりがちなテーマを軽妙にユーモアを交えて表現していて、序盤からくすくす笑いながら観た。脚本はブリジットを演じたケリーオサリバン本人によるもので、彼女の実体験を下敷きにしているとい>>続きを読む

四月の永い夢(2017年製作の映画)

4.2

冒頭の桜並木と菜の花の中にたたずむ喪服姿のカットが哀しく美しい。恋人に永遠の別れを告げられたその年の「四月」に、ずっと頑なに閉じこもっている彼女の心が、一瞬にして伝わってきて胸が苦しくなるのだ。中川監>>続きを読む

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)

4.0

身体が小さく難読症もあって勉強がまるでできなかった彼は早くからその才能が突出していた映画の世界にしか逃げ道がなかったようだ。逆に言えば運命の神がこの稀代の大監督を何が何でも世の中に産み出そうと必死だっ>>続きを読む

エレナの惑い(2011年製作の映画)

4.2

このレビューはネタバレを含みます

「父帰る」のアンドレイズビャギンツェフ監督作品。面白かった。端正で静かな画角から伝わってくる、今にも何かが起こりそうな緊張感がたまらない。寝室こそ別であるが、とても仲睦まじい老夫婦に見えるウラジミルと>>続きを読む