ジジイ

ラブレスのジジイのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.0
ロシア語の原題は「非愛」であり単に「愛が無い」というより、より強く「愛の対極」をイメージする言葉だという。ニュアンスとしては「憎しみ」ではなく「無関心」が近いのではないか。ここに登場する夫婦は確かに最低なのだけれど、自らの幸せを渇望するあまりに、周りに対する思いやりを無意識のうちに忘れ去っているという意味で、われわれとそこまで遠くない。身近な人たちを幸せにすることが結局、自分自身を幸せにする近道であること。それはきっかけさえあればいつでも呼び戻すことのできる真理だと、この作品は信じているような気がした。





以下ネタバレです。






何と言っても冒頭の、子どもが両親の会話を聞いてしまうシーンの衝撃がすごい。翌朝逃げるように家を飛び出した小さな背中を最後にわれわれは二度と彼の姿を見ることができない。これは監督が最初から決めていたことだという。だからこそラストの川面を不気味になぞるカメラの視線に、観客は底知れぬ恐怖と絶望と悲しみを覚えるのである。そして「エレナの惑い」がそうだったように今作でも、登場する3つのアパートは全てスタジオのセットである。自然光としか思えない絶妙な照明と撮影のマジックに今回もしっかりと騙された。人探しのボランティア団体は実在のもので、ロシアの広大な国土の中で相当な成果を上げているという。鑑賞しながら道志村の出来事が何度か頭をよぎった。
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