キルスティン

ラブレスのキルスティンのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
4.5
「しあわせの絵の具」「フロリダ・プロジェクト」からの「ラブレス」。
大変意味があります。

今作、「しあわせ…」「フロリダ…」と対照的に大変裕福な家族が主役ですが、前レビュー2作品に存在する"夫婦愛"、"親子愛"のそのどちらも存在しないという、固く冷たい氷のような作品。振り返るだけでも頭がキーンとする。
しかし、これ程までに"現代人"を表現している映画はないかもしれません。

ロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品。
カンヌ国際映画祭審査員特別賞や数々の映画祭で賞賛を受けた『ラブレス』。
失踪してしまった息子の行方を(一応)捜索するも身勝手極まりない夫婦の姿を通して、普遍的で現代的な問題をあぶり出すサスペンスドラマ。
(町山さんが映画ムダ話で解説しているそうなのですが、有料サイトのため私は未聴😢)

離婚協議中の夫婦。12歳になる一人息子がいる。家族で過ごしたマンションは売りに出しており、買い手が決まるまでとりあえず3人の住居となしているが、夫婦には既に新たなパートナーがおり、そのマンションは家庭として機能はしていない。
子ありの離婚の場合、親権の奪い合いはよく聞く話ですが、驚くことにこの夫婦、その逆なのです。親権の擦り合いをしている。親権擦り合い口論を夜リビングで大声でしているのですが、それを不慮のタイミングで息子が聞いてしまうというシーンがあります。息子に聞かれてしまっていることを夫婦は気付かぬまま口論を続けます。。
このシーン、息子アレクセイ役のマトベイ・ノビコフくんには事前に二人がどんな内容の話をするかは知らされていなかったとのことですが、ノビコフくんの素直な演技には作中いちばん胸が締め付けられます。そして、このシーンを最後に息子アレクセイは画面に出てくることはありません。

母親は息子が二日間学校に来ていないことを担任の先生から知らされます。
今作、常に違和感が付きまとう。
新しいパートナーといちゃいちゃしてから帰宅した母親は即自分の寝室へ行き、いちゃいちゃの余韻にひたりながら幸せそうな顔をしてベッドに入り休みます。とっても違和感です。普通、子供部屋を覗いて子の存在を確認するとか、そばに行って子の寝顔をいとおしく眺めたりしませんか?以前レビューしたジェイク・ジレンホール主演の「雨の日は…」の作中、シングルマザーのナオミ・ワッツがソファーで寝ている一人息子の寝顔をじっくりいとおしく見つめ、頬を撫でキスをするシーンがあります。私も同じ母親として、このシーンはグッときました。この動作ひとつに母親の愛情がしっかりと見て取れるからです。しかし、今作のジェーニャという母親からは母性を微塵も感じ取ることができません。
父親は父親で、妻から息子が失踪したと連絡を受けても表情ひとつ変わりません。友達の家にでも行ってるんだろう、そのうち帰ってくるだろうと冷静です。一万歩譲ってその可能性もあるとしてその反応だったとしましょう。が、いよいよ息子が帰ってこないため、警察や捜索ボランティアが動き出す事態になるのですが、そんな大事になっても父親からは危機感を感じられません。アレクセイ探しに一生懸命になっているのはボランティア団体の人たちのみで、父親は捜索に同行しているものの申し訳程度にいるだけ。必死さは全く感じられない。母親に至っては捜索ボランティアに同行するシーンすらありません。息子が失踪中でも新パートナー宅に寝泊まりしています。息子がいつ自宅に帰ってくるかもしれないのに。はぁ。
作中、アレクセイの失踪が分かる前、夫婦の新たなパートナー(といってもまだ不倫相手という存在)とのセックスシーンが結構長めに用意されていたりするのですが、そんなお楽しみの最中も子供は一人で家にいるのかと想像できる観客は嫌悪感しか抱かない。
親らしからぬ、まともな人間らしからぬ夫婦の言動にひたすら違和感。
しかし、同時に、このロシア人夫婦の振る舞いはまるで自分を鏡で見ているような気分にもさせられるのです。
それは、監督が意図するところである、現代人の"他者への関心の無さ"です。
家族の無関心。社会への無関心。
スマホを片時も離さない母親は結婚に幸せを委ね、破綻すると次は不倫相手に幸せを委ねます。自分の幸せを常に他者に求めています。
会社での体裁ばかりを気にする父親は、妻や子はあくまで体裁を保つアクセサリーであり、家庭自体には無関心、本能のままに浮気相手を妊娠させてしまう有り様。
今作は現代人がどれほどまでに他者に無関心であるかを様々な描写で観客に訴え掛けます。
一見、極端にも思える夫婦の無関心描写も、観客という客観的視点から主体的視点に変えたとき、たちまち自分のことは見えない。
次第に、夫婦に対して抱いていた違和感と嫌悪感は自分に対して抱いていたものでもあったと気づかされます。こわ〜。

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督は「他者への思いやりを失いつつある現代人への警告がしたかった」と語っています。
離婚を控えた夫婦の息子が失踪するという設定にすることで、関心の究極である母性、父性、helpに手を差し延べる条件反射さえも希薄になりつつある現代人を如実に表現しています。

個人的にいちばん恐ろしかったシーンは、息子を探しに母方の祖母宅へ訪ねに行った帰りの道中、夫が運転する車の助手席の妻が、おそらくこれまでも100万回は愚痴ったであろう結婚と子を生んだ後悔を嫌みたっぷりに夫に聞かすシーン。何故なら、このときの妻のセリフ、ほぼ一語一句違わず私も元夫に言ったな…と。で、この妻のタラタラタラタラ好き放題言いやがっての話を聞いている夫の表情がまた絶妙!(笑)リアルでこれ経験したことあるだろ!wってくらいすごいいい顔してるw

スーパーボランティア尾畠さんがロシアにいたらな〜。
ムレイワガネグモの方が全然母性あるわ。
とかも思ったのでした。

冬のロシアを体験したい方。
ロシア女性(ヘアぼかしなし)にチャレンジしてみたい方。
妊婦のセックスに興味がある方。
に、オススメです‼️
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