壮絶な罵り合いや、静かだが痛烈な憎しみをぶつけ合う夫婦。
その異常さが序盤から克明に描かれるため、テーマが分かりやすく感じた。
罵倒し合った直後でも、感情の整理よりも先に生理現象として当然のようにトイレで用を足す妻。
散々に妻に罵倒され、口数少なに言い返しながらも、妻がベッドルームにこもった直後に食欲を満たすため物を食べる夫。
そして、二人の会話を耳にして声を殺しながら号泣する息子。
12歳で親に泣くのを聞かれないように口を押さえる、異様な悲しさ。
この『異質』な夫婦が望んだ通りに『子供が消えたら』というシチュエーションを見せたのがこの映画なのだろう。
きっと、このエグい夫婦を嫌悪しながら、でも人間は――自分はこうならないかと自問してしまう人もいるのでは?
私はそうだった。
ここまで極端ではなくとも。
一方で、妻の愛人や息子友人の父親など子どもを愛する姿が描かれていて、愛情の存在を全否定しているわけではないことも分かる。
だからこそ、この夫婦が『異質』だと思える余地を残している。
こわい、とてもこわい映画だった。
映像の切り取り方、アングル、ピントの位置もすばらしい。