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ラッキーのwigglingのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
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名優ハリー・ディーン・スタントンの遺作にして、全映画ファン宛の遺書ともいえる作品。『パリ・テキサス』以来、アメリカ西部を体現する俳優と位置付けられるようになった彼が、死を目前に何を思うのか。

ハリーは演技をしないことで有名な俳優。彼は意に反する役柄を演じることができないんですね。なので他の作品同様、本作においてもラッキーはハリー自身であり、ラッキーの生死観もハリーのもの。
そしてラッキーの幼少期の記憶、突然すべてが暗闇に思えてしまうという恐怖が目前に迫っている。
興味深いのは、彼はキリスト教が唱える死後の世界を信じておらず、死後の世界は「無」であり「暗闇」なのだということ。「魂などない」と彼は言う。

死ねばすべてが無に帰すという考え方は、若いうちは良いとしても、死を自覚した人間にはとてつもない恐怖なわけで。
「ではどうすれば?」と問われ
「微笑むのさ」とハリー。
生きているあいだはせめて微笑んで気分良く暮らしていこうということ。それが恐怖に打ち勝つ唯一の方法なのだと。

リクガメのルーズベルトはハリーの象徴であり、ハリーはもうすぐいなくなるけど、ルーズベルトのように「大切な用事で出かけた」のだと考えようと。きっと砂漠のどこかで気楽に暮らしてるさと。
本作は、そんな制作者たちの想いが詰まった、ハリーへの公開ラブレターなんですね。

エンドロールで流れるフォスター・ティムズの"The Moon In The Moonshine"はハリーへのトリビュート曲。彼が出演した作品のタイトルが散りばめられた名曲です。
ハリーのファンであればここで感情が決壊するに違いありません。
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