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ラッキーのGreenTのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
4.5
ラッキーは、貧しいながらも平穏な老後を送っていた。毎日おんなじルーチーンの繰り返しだけど、それを楽しんでいるようだし、毎日顔を合わせる仲間もいる。

だったのに、ある日コーヒーができるのを待っていたら、キッチンで倒れてしまう。医者に行くと、何も悪いところはなく、タバコを吸い続けていても全く問題なし。「単にトシだってことだよ」と言われる。

お医者さんは、ラッキーが、このトシまで大きな病気もせず、長生きできてるってことが「ラッキーなことだ」って言うんだけど、ラッキーは、死の恐怖におびえる。

この気持ち、すっげー良く分かる!そして、20代の頃にはわからなかっただろうなあ~と思った。だって、なんの前触れもなく倒れて、検査しても問題が見つからない。ってことは、治せない、治らない!

トシを取るってそういうことだよな、って思う。もう逆戻りはできない。今、アンチエイジングとか言ってるけど、朽ちていくことは止められない。

ラッキーは、時々電話している友達がいるんだけど、受話器に向かって話していないのに話が通じたりとか、この友達は実在しないんじゃないか?と示唆される。でも、ラッキーは、変な夢を見た後、この友達に電話を掛けると、通信音が延々と続いて、電話に出なくなる。これは友達が死んだことを示唆していると思う。

こうしてラッキーは、自分が本当にあと何日か、何週間かわからないけど、本当に死ぬんだ、って自覚し始める。ラッキーは、「死」というものを「真っ暗な中にずーと閉じ込められる」みたいなイメージで観ているけど、それってすごい良く分かる!

こうして書くとシリアスな映画に聞こえるけど、ラッキー役のハリー・ディーン・スタントンがめちゃくちゃ面白くって、いわゆる「いじわるじいさん」みたいな、口は悪いし、無神論者だし、ドライなものの見方が面白い。

ラッキーの友達役のデヴィッド・リンチも面白くって、飼っていた亀(ルーズベルト大統領という名前)が逃げ出しちゃって、最初はすごく悲しんで探しまくるのに、「今思うと、ルーズベルト大統領は、ずーっと逃げ出そうとしていたんだと思う。俺に見つからないように周到に計画して。きっとどうしても行かなければいけない理由があったんだろう。それをずっと邪魔していて、申し訳なく思っている。俺が住んでいるところを知っているんだから、気が向いたら帰ってくるだろう。裏のゲートを開けたままにしているんだ」って言うシーンがあって、めちゃくちゃ泣いた。私も、死んだ愛犬に全く同じことを思った。これからは、動物との関係は、こうでありたいなって思った。

ラッキーは死の恐怖を感じるんだけど、そのおかげで色々なことを考えるようになる。最終的には、現実を受け入れて、心の平安を得るんだけど、それが人間が生きていて美しいことだと思った。

アンチエイジングとかって、トシを取って行くことのネガティブな部分、「ああ、もうアタシ若くないんだわ」なんて思ってガッカリして自分は価値のないものだ、って思ってしまったり、死ぬことの恐怖を回避するために使われていると思うんだけど、それってすごく大事なことを見逃しているんじゃないかなあと思った。

こういうネガティブな感情にぶち当たるから、人間いろいろなことを考えたり、「こういうことがしたい!」という気持ちが浮かんでくる。ラッキーは、女性のために歌を歌う。あんなこと、死の恐怖を感じなかったら絶対しなかっただろう。あのパーティにさえ行ってなかったかもしれない。

あと、背景がサボテンとか、砂漠みたいな熱そうなところで、アリゾナかと思ってたらカリフォルニアなんだそうなんだけど、乾いて何もない土地なのに景色がやたら美しく撮られていて、何もなくても自然は美しいなあって思わされる。共演者たちも、白人も黒人も、老いも若きも、女も男もいて、みんなが自然に共存している感じがいい。
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