ひでやん

女王陛下のお気に入りのひでやんのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.2
王室で巻き起こる女たちのドロドロ愛憎劇。

奇妙な過去の3作品が強烈だったので、今作はヨルゴス・ランティモスの作品なのか?と疑うほどまともに思えた。脚本が彼によるものではなく、舞台設定も18世紀の史実という事で、不気味さは薄い。しかし、不穏な空気は漂いまくっていた。

豪華な装飾や衣装がただただ素晴らしい。魚眼レンズや広角レンズによって映し出される歪んだ空間は、国民には見えない宮廷の歪みのように思えた。その歪んだ世界をドアスコープから覗き見るような感覚だった。

病弱で気まぐれなアン女王が国を支配しているように見えて、実は彼女を意のままに操り、実権を握るサラ。そのサラを出し抜いて貴族の地位に返り咲こうと画策するアビゲイル。そのアビゲイルを権力で支配するアン女王。それぞれの思惑が複雑に絡み合い、3人の名女優が激しくぶつかり合うので見応えたっぷり。

馬車から突き落とされ、泥だらけでやってきた下っ端のアビゲイル。そして、泥風呂に浸かってゲラゲラ笑う女王とサラ。文字通り皆泥まみれになるドロドロ劇場。ジョーカーを取らせるか、他のカードを取られるか。「主導権」というカードが3人の中でぐるぐると回り、ババを引いた者がゲロを吐く。

国政や戦局を知らない女王にとって、外の風(国民の声)は痛いので外を歩けない。通風を患う姿からそんな事を思った。男たちは戦争や財政なんて我関せずとギャンブルやパーティに興じ、醜悪を晒す。広い宮廷も魚眼レンズで見れば小さな世界で、そこにいる女たちによって国の運命が決められてしまう。

デブでブスでバカを見事に演じながら、孤独と弱さを滲ませたオリヴィア・コールマン、狡猾さの中に憂いと野心を滲ませたエマ・ストーン、余裕の中に焦りと苛立ちを滲ませたレイチェル・ワイズ、3人の名演技でお腹いっぱい。

勝者が味わう屈辱と、敗者が覚える解放を描いたラストが良かった。本当の幸福はどちらにあるのか、2人の対比を描きながら、女王の優越と虚無を映し出すラストが最高だった。
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