シュローダー

女王陛下のお気に入りのシュローダーのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.3
ヨルゴスランディモスはやはりブレない。観客を気持ちよく帰すような映画を、彼が撮るわけがない。18世紀初頭のイングランド。わがままで人一倍虚弱な女王 アンと、彼女に付き従う側近 サラ。そこに田舎の没落した貴族の娘 アビゲイルがやって来たことによって、彼女たちの欲望と嫉妬が暴走していく…
この映画は宮廷物ではあるが、全くお固い映画では無い。基本的にはコメディだ。それも下ネタだらけの。とにかくこの映画のギャグはくだらない。それを象徴するのが男達の描写。まともな男は誰一人として登場せず、悪辣で品の無い人間しか宮廷には居ない。では、女たちはどうか? 一見してそれは"自立"しているように見えるかもしれないが、そんな事はない。アン女王の姿を見れば明らかだ。結局のところ、喪失を埋める為に、彼女は他者に依存するしかない。それを、愛ゆえに厳しい言葉を投げかけながらも、受け入れるサラと、甘い言葉をかけ、自分の権威を高めようと利用するアビゲイル。彼女たちの争いは滑稽であると同時に切実なものに映る。このバランス感覚こそ紛れも無いランディモス節だろう。そして、文字通り"戦争"と重ね合わされて描かれる女同士の寵愛を巡る戦いの結末は、何とも意地悪で、何とも切ない。ここへ来てランディモスの過去作「ロブスター」の系譜へと繋がる。この映画も、「真実の愛」を巡るラブストーリーだったのだ。この何処と無く愉悦を感じる余韻が堪らない。総じて、魚眼レンズを駆使したトリッキーな撮影の妙、女優陣の熱演、喜劇と悲劇を綱渡りし続けるストーリー。アカデミー賞に数多くノミネートされるのも納得のクオリティの高い映画であった。デートムービーとしては品がなさすぎるが、奇を衒った映画を拝みたい物好きならば必見。